先ごろ、イギリスの新しい王様の戴冠式があり、ニュージーランドの首相も招かれて、式を前に王様との謁見がかなった…というニュースを見た。イチ庶民にはあまりにも遠い話なものだから、ほぉー、一国の首相ともなると、王様と一対一でお話しする機会なんかもあるのかぁ、スゴーイ!と、ミーハー気分満載でニュースに耳を傾けていたのだが、「王様とのお茶のお供には首相の大好物のソーセージ・ロールが出され、首相はその気の利いたおもてなしに感無量」という部分が聞こえた時、わたしの“おやつセンサー”がビビビッ!と反応したのである。
なぬっ、王様とのお茶にソーセージ・ロールが⁉ ソーセージ・ロールって、この国のベーカリーだったらどんなに品揃えがイマイチなお店(言い方が失礼)でも絶対にあるアレのことでは⁉皆さんも一度は見たことがあるでしょう。パン屋さんの、ホカホカおかずパイがぎっしりのショーケース。そのすみっこにやっぱりレギュラーとして必ず鎮座しているソーセージ・ロールを…。一般的なパイというものは丸くてずっしりとした面持ちだけれど、ソーセージ・ロールはそれに比べるとやや小ぶりで細長い形をしている。中身はソーセージがそのまま一本入っているわけではなく、“ソーセージ用のひき肉”が詰めてあって、ふわっと優しい食べ心地。外側はパイ皮だから、パイの仲間にはちがいない。でも、まるまる一個のパイをガッツリ食べるのはキツそうかも、くらいのお腹の空き具合にぴったりで、これがあってよかったァと思うような安心感⁉をたたえた食べ物がソーセージ・ロールである(と、わたしは思っている)。
正直、今まで知らなかったのだが、首相はこれとカロリーゼロのコーラがお気に入りだそうで、なんというか「俺は断然ステーキ・パイ派」と豪語されるより、ソーセージ・ロールを愛してやまないお人柄…と聞くと「何それ〜⁉ ほほえましすぎないか⁉」という気持ちになるのだった。ソーセージ・ロールが好きな子どもだったら、この国にも大勢いる。しかし、国の要人になってソーセージ・ロール愛を語れる人はそうはいないだろう。ましてや、イギリスの王様に呼ばれて行って、その席でうやうやしく「どうぞ」とおすすめされるなんて!わたしごときは首相のお仕事ぶりなどには何一つコメントできない立場だが、努力して偉くなった上で、こーんな気取らないモノが好物です、と公言できているのは夢みたいなことだと思う。
ついついわたしも近所のベーカリーにひとっ走りして、ソーセージ・ロールを食べてみる。いやもう、当たり前すぎて本当にどこでも買える!なんなら、こだわりの高級ベーカリーには凝ったフィリングのグルメおソーセージロールがあったりするが、メジャーなのは、ふつう〜のソーセージのパイ包みである。きっと首相もこれを王様と…。残念ながらイギリスで首相が食べている様子はテレビに映らなかったし、おみやげにいただいたらしき分も紙袋に入っていて、実物は見られなかった。感想を聞いた取材陣には、首相は笑って「トマトソースがないのが惜しかったです」と答えたのだとか!王様の前でドッキドキに緊張しながら食べる大好物か…。パリパリのパイと塩気のあるソーセージだもの、トマトソースはつけたかっただろうな〜。想像するだけでこちらもたちまちノドがかわくのである。
*Tuckerとはキーウィ独特の言葉で、「食べ物」というよりは「お腹に詰め込むもの」という意味
マツザキ リカ
ニュージーランド在住26年。クライストチャーチを拠点に暮らし、心も体も豊かにするキーウィフードの探求に余念がない。おいしいものも不思議なものも、いただきます!
2023年6月号掲載