去る7月7日は“世界チョコレートデー”だったらしい。らしい…と書いてしまうのは、当日までそんな日の存在を知らなかったからで、チョコ好きとしてはなかなかに悔しいことである。でも、もっと悔しかったのは、その日の朝の情報番組で『オークランドの某ホテルでは、世界チョコレートデーにちなんでホットチョコレートを無料でお配りしています!』と言っているのを聞いた瞬間だった。えっ!冬のさなかの通勤途中にホットチョコレートがもらえちゃう?いいなぁ、わたしだってオークランドにいたらあのホテルの前に行けるのに〜。大好きなホットチョコレートで温まってから仕事に行けるなんてうれしすぎる!
ところが、テレビの中の通りすがりの人々は、意外とホットチョコレートどころじゃない、と立ち止まりもせず先を急いでいた。朝にコーヒーをテイクアウェイする人は多いのに?わたしだったらホットチョコレートも全然アリなんだけど…。なにしろ朝のその場面しかテレビには映っていなかったので、どうかできるだけ大勢の人が、思いがけないホットチョコレートでステキな気分になれたことを祈るのみである。
そんなわたしはというと、ふだんからちょっとお茶しようよ、という話になってカフェに入る時でも、わりと誰もが自動的にコーヒーを注文する中「フラットホワ…じゃなくて今日はホットチョコレートっ!」と突然思い立ったりする。たしかにひと休みの時にエスプレッソを飲めば、瞬間で気持ちがシャキッと切り替わるもの。ところがホットチョコレートの場合、カラダに送りこまれるのは熱くてトロトロのチョッコレートである。一口目のカカオの香りで心が落ち着いて、休まって…やがてじわ〜んと元気が湧きあがってくるような?その感じがコーヒーとはちがうんだなぁ、と思っているのだ。その成分を人はカロリーと呼んでいる⁉いいえ、わたしはカカオで整うのです︵と固く信じたい)。ましてや外が寒い日だとか、ジトジト雨が降っている日などは、そんなカカオの優しい力が偉大に感じる。いつの間にか体はアツく、だけど気持ちはやわらかに。目指したいのはそこかな、と。
だって、チョコでしょ…ただただ甘いイメージがあるけどどうなの?という方々には、ショコラティエの作るプロのホットチョコレートはどうでしょう。もちろんチョコレートブティックで優雅に一杯、もいいし、ニュージーランドのホットチョコレート事情のいいところは、週末のマーケットなどでもちゃんとチョコレート屋さんの屋台が出ていて、歩きながらでもそのしみる一杯が楽しめるところ。肌寒い朝なんかに出かけてみたら、もう行列ができていたりするものね。プロのホットチョコレートは、本物のつややかなチョコレートを練った濃厚な飲み物。だから人気もちがうのだ。うーん甘そう!とまだ言うアナタは、チリ風味を選んでみて。ピリ辛唐辛子は不思議とチョコの味わいをますます際立たせるし、辛いものの温熱効果で温かさまでレベルアップ⁉ …ほーら、思わず列に並びたくなりません⁉
この国に春が来るまであと少し。今日もお天気がいまいちなら、ホットチョコレートの出番かな。もちろん、春らしさが増す日差しの中でもおいしいから、スイセンが咲き始めるマーケットにも行こう!はっきり言ってわたくし、どこかで配ってなくたって飲んでます。
*Tuckerとはキーウィ独特の言葉で、「食べ物」というよりは「お腹に詰め込むもの」という意味
マツザキ リカ
ニュージーランド在住26年。クライストチャーチを拠点に暮らし、心も体も豊かにするキーウィフードの探求に余念がない。おいしいものも不思議なものも、いただきます!
2023年8月号掲載