幼児インクルーシブ教育:
多様性を尊重し、すべての子どもに平等な機会を
ニュージーランドの幼児教育のカリキュラム・テファリキ(Te whāriki)には、各子供の特性や背 景を尊重しながら成長できることが強調され、プログラムを展開している。岸本暁美さんは、現地 の保育園・幼稚園で20年以上幼児教育に携わり、インクルーシブ教育を実践してきた。その貴重な 経験について、お話を伺った。
多様性を受け入れる
私が働く幼稚園では、個々の子供のニーズに合わせた学 習プログラムを提供しています。現在、特別な支援が必要 な発達障害を持つ子供たちを受け入れており、注意欠陥多 動症(ADHD)、自閉症(Autism)、発達性読み書き障害(Dyslexia)などを持つ子供たちが挙げられます。また、15カ国以上の異なる文化の子供たちも一緒に学んでいます。 園では、異なる背景を持つ子供たち、障がいを抱える子 供たちを含む全ての子供たちが、同じ学びの場で一緒に過ごしています。これにより、子供たちは違いを受け入れる ことが普通であることを日常の中で学んでいます。 例えば、障がいを抱える子供たちがマットタイムと呼ば れるグループアクティビティに異なる方法で参加していたり、参加できなかったりしても、それはその子供たちにとっての学び方であり、それを尊重する考え方が浸透しています。さらに、子供たちは自分たちで、障がいのある仲間と協力して楽しい学習環境を構築する方法を考え、実践する サポートを受けています。私たちの園では、テファリキにある“他者を尊重し、思いやりを持つこと”を特に重要視し、教えています。
教員と保護者の協力体制
子供達へのサポートとしては、ニュージーランドの教育 省と連携し、専門家からの支援を受けながら、教員と保護 者が連携しています。教師間での情報共有は、毎朝のミーティングにて、特別な支援が必要な子供たちへのアプローチや対応方法について詳しく話し合います。新しい情報を得たり、他の幼児教育機関の取り組みを学んだりするために、積極的に勉強会にも参加しています。 保護者との情報共有には、子供の成長記録をオンラインで共有するストーリーパーク (Storypark) と呼ばれるプラットフォームを通じて、フィードバックを収集し、プログラムに反映します。送迎時には保護者との情報交換、個別面談や家庭訪問の実施、カルチャーデイなどの定期的に行われるイベントなど、常に保護者と交流や意見交換をしています。
インクルーシブ教育の実現にむけての課題
支援が必要な子供たちの増加によって、子供と教員の数 のバランスが崩れると、支援が必要な子供たちへの時間を 過度に割いてしまうことで、他の子供たちへのサポートが不足する可能性もあるため、バランスが取れるように教員同士で気をつけているのが現状です。また、支援の必要な子どもたちの対応には特別な知識、経験を要します。そのため専門家や異なる機関からの支援が必要となりますが、 協力を得ることが難しい場合もあります。 ニュージーランドの幼児教育現場では、インクルーシブ教育は新しい概念ではなく、私が関わり始めた20年前にもすでに存在していました。これからも、異なるバックグ ラウンドをもつ子どもたちが、平等な学びの場で成長して いけるよう、基本的な環境作り、援助・支援の時間を増やす、 教員の知識の向上などが課題になると思います。
一人一人の個性を大事に
私たちは、同じ文化や背景を持つ子供や保護者であっても、その家族ごとに異なる価値観が存在することを理解しています。また、ヨーロッパ中心の標準的な考え方だけで なく、ここで少数派となる可能性の高い他の文化の視点にも注意を払うよう、教員同士で協力し、すべての子供が異なる考え方や価値観を持っていることを常に心に留めています。できるだけ固定観念にとらわれず、それぞれの子供たちと個別に関わるよう心がけています。
岸本暁美さん
ニュージーランド在住27年目、 オークランドの公立幼稚園で勤務。オークランド工科大学で幼児教育を専攻し様々な幼児教育現場で20年以上の経験を持つ。また10代のラガーマン息子2人の子育て中でもあり、楽しい子育てを常に模索している。ニュージーランドのゆめことして子育て、ニュー ジーランドの幼児教育事情、ラグビーなどの情報をブログで掲載中。
【Web】yumeko-kosodate.com
2023年11月号掲載
Text: Mariko McKenzie