ワーク・ライフ・バランスの良さやフレンドリーなカルチャーを知り、ニュージーランドを移住先に選んだJuniさん。
日本人的なマニュアル式の就職活動ではなく、カルチャーを考慮した就職活動に切り替えアクションを起こした結果、場所や時間に囚われず、形式にとらわれない合理的なニュージーランドの労働環境を手に入れた。
多様な人種やバックグラウンドを持つ人々が集まるダイバーシティな環境で働くJuniさんに、日本との働き方や考え方の違いなどのお話を伺った。
Q. ニュージーランドへ来たきっかけは何ですか?
学生時代からバックパックを背負って海外をあちこち旅行していたので、海外への敷居は低く、漠然と将来は海外で暮らしたいと考えていました。
日本でITエンジニアとしてある程度キャリアを積んだ後、海外移住計画に取り組み始めましたが、その時の自分自身の力で実現可能な移住先として、ニュージーランドやカナダが浮かび上がりました。寒い地域は得意ではないので、カナダよりもニュージーランドの方が良いかな、と思いましたが、実は、それまではニュージーランドについてあまりよく知らなかったんです。南半球の島国なので、南国のアイランドをイメージしていました(笑)。
その後、ニュージーランド在住の英語講師からオンラインで英会話レッスンを受けたりしながら、ニュージーランドの情報収集を行いました。ワーク・ライフ・バランスの良さやフレンドリーなカルチャーを知って、ますますニュージーランドに興味が湧いてきました。
Q. 日本とニュージーランドで複数の転職の経験があるとのことですが、現在のお仕事を始める前はどのようなお仕事をされていましたか?
社会に出てからは、ずっとIT業界でエンジニアとして働いています。それは日本でもニュージーランドでも同じです。ITエンジニアは、ポジションに応じて働くことが一般的なため、ひとつの会社に固執することは少ないですし転職はよくあることです。
20代後半にはもう海外移住することを決めていたので、それまで働いていたIT企業を辞めてフリーランスのエンジニアに転身しました。当時の日本のIT業界の労働環境はかなり厳しいものでしたので、フリーランスになって移住資金を貯めることや移住の準備(語学の勉強など)に集中する時間を確保したのは、良い判断だったと思います。
日本のIT業界の在り方や労働環境に疑問はありましたが、この仕事自体は好きでしたし楽しんでもいました。20代のエネルギー溢れる時期に、自分のキャリアの基盤を築くことができたことは良かったですね。
Q. ITエンジニアとのことですが、どのようなお仕事をされているか簡単に教えてください。
現在は企業のデジタル部署にSenior Software Engineerとして所属し、おもにフロントエンドのスペシャリストとして働いています。日本の企業ではIT業務を外部委託することが一般的ですが、ニュージーランドでは社内開発が一般的です。私は自社のシステムやアプリの開発に携わっています。
通常はデジタル部署の開発者チームに所属していますが、新しいプロジェクトが立ち上がると、所属チームを離れて新しいプロジェクトチームに参加します。このチームはクロスファンクショナルチームと呼ばれる体制のもので、社内の様々な分野のスペシャリストが集まり、協力して仕事を進めます。開発者、テスター、UIデザイナーなどの技術分野だけでなく、ビジネスアナリストやマーケティング、DXなどのビジネス分野のメンバーも含まれます。日本ではあまり見られないチーム体制ですが、社内のプロジェクトを成功させるためには理にかなった体制だと考えています。また、社内開発のため自社の業務やサービスを理解する必要があります。技術者であっても、技術だけでなく自社のビジネスも考慮する必要があります。
ニュージーランドではアジャイル開発という開発アプローチが一般的で、コミュニケーションを重視し、柔軟性とスピード感をもって進行します。短い期間で機能を開発し、それを利用者や関係者に見せてフィードバックを得ながら、継続的に改善していきます。ドキュメントや仕様書の作成はほとんど行われません。日本では一般的にウォーターフォール開発が主流で、フェーズごとの開発で進行し、要件定義から設計、開発、テスト、展開という順序で進みます。各フェーズは厳格に決められたドキュメントや手順に従い、変更を取り入れる柔軟性はありません。
「上から下に流れるフェーズでドキュメントに従ってすすめるアプローチと、コミュニケーションを重視し柔軟性をもってすすめるアプローチ」、これは、本当に日本の仕事文化とニュージーランドの仕事文化のカルチャーの違いを反映していると思います。
この開発アプローチの違いには、慣れるのに時間がかかりました。今でもコミュニケーションに追いつけなかったり、上手くディスカッションが出来なかったりと苦労しています。ドキュメントがあれば後でゆっくり確認できるのに、と思うこともしばしばですが、私ひとりのためにスピードをおとすことはできません。慣れるしかないです。ただ、新しい環境での挑戦は楽しみでもありますね。
Q. ニュージーランドでの就職活動はどのように行いましたか?
ニュージーランドの大学を卒業して最初に就職活動をした時は、インターネットで得た情報に基づき、一般的な就職活動を行いました。具体的には、大手求人サイトからのオンライン応募や、Linkedinやプロファイルサイトを充実させること、CVやカバーレターのプロによる添削やアドバイス、オンラインのジョブインタビューレッスン受講など、いわゆる普通のアプローチです。
ですがその後、日本人的な型にはまったマニュアル式の就職活動が、ニュージーランドでの就活には適していないことに気づき、日本語での情報収集はやめました。ニュージーランドには日本と違った風土があります。ローカルの仕事が欲しいなら、カルチャーを考慮する必要があります。
個人的には、ニュージーランドでの就職活動にはコネクションとリファレンス、そしてアクションが必要だと考えています。これらが揃った時に、ラッキーが降ってくると(笑)。
コネクションを使った就職活動にはネガティブなイメージがあるかもしれませんが、ニュージーランドでは人と人とのつながりが重要です。ネットからCVを送ってくる他人よりも、何らかのつながりがある人と一緒に仕事をしたい、という風土があります。それに気づいてからは、直接人と会う機会を積極的に増やしました。
現在の会社はニュージーランドで3社目ですが、この仕事はオークランドで新しく出会った人の紹介で得ることができました。その繋がりは、日本に興味を持っているローカルの方に日本語をボランティアで教えていた経験が発端です。そのレッスンの中で、仕事を探していることを話したところ、その方の勤める会社の技術職を紹介してもらえました。こうしたさりげない会話がコネクションに繋がるのです。
さらに、その転職時には、3人の信頼できる元同僚や友人からの良いリファレンスが大きなプラスになったと思います。技術的な試験はなく、簡単な面接だけでしたが、彼らが私の技術力や人柄を保証してくれたおかげで、好印象を与えることができました。良いリファレンスを提供してくれる人とのつながりも、コネクションの一つです。
私は就職活動を問題解決能力を示す場だと考えています。ゴールに到達するためには何が必要かを自分で考え、計画を立てて行動することが重要です。
Q. 現在の会社からオファーをもらえたポイントは何だったと思いますか?
ラッキーだったんです(笑)。
ただ、ひとつ言えることは、ラッキーに出会ったときに、そのラッキーを手に入れる準備はできていたのだと思います。
具体的に言えば、既にニュージーランドでのキャリアがあり、良いリファレンスを提供してくれる人たちと知り合っていた、ということです。
Q. IT関連のお仕事に就くために必要または、持っていると有利な資格(技術)などがあれば教えてください。
資格を否定するつもりはありませんが、この仕事において資格が必要だと感じたことはありません。自分の持っている資格はそれほど多くないと思います。ニュージーランドの大学に通ったのはジョブサーチできるビザが必要だったためだけであり、また別の理由で大学院にも通っていましたが、仕事が決まったため、セメスターワンで中途退学しました。授業料が戻ってこなかったことはショックでした(笑)。
何かモノを作ることは、単純に楽しいです。昔ほどの情熱はないかもしれませんが、これが私の原点です。また、この仕事を続けるための秘訣は、必要な時に必要なことを学ぶことだと思います。
Q. ニュージーランドと日本での働き方の違いなどはありますか?
ニュージーランドの多くの企業では様々なフレキシブルワークが取り入れられています。リモートワークが可能になっていたり、従業員に柔軟な労働時間の選択肢を提供して、ワークライフバランスを向上させています。
私の会社でもフレキシブル勤務を許可しており、オフィスへの出社やリモートワークは個人の選択です。仕事の開始・終了時間も同様です。家族の用事や子供の送迎のために仕事を途中で抜けることも一般的です。移民も多く、母国に帰国しながらリモートワークする人もいます。
こちらの働き方は合理的なのだと思います。場所や時間に囚われず、形式にとらわれない働き方を通じて、家族を優先することができる環境を作っています。
また、私の会社は多様な人種やバックグラウンドを持つ人々が集まるダイバーシティな環境です。そのため、会社全体で平等主義が徹底されています。年齢や性別、国籍の違いだけでなく、ポジションによる差別や上下関係も存在しません。
しかし、日本の仕事文化に慣れた私にとって、ボスや上司がいない環境で自律的に働くことはなかなか慣れるのが難しいです。例えば、マネージャーやプロダクトオーナーのような上の(ようにみえる)ポジションの人に対して言い返したりはしませんし、褒められると嬉しいと思います。また仕事を始める前に承認や確認を求めたり、周囲を見渡してから取り掛かりたいと思うこともあり、初動が遅れがちです。フットワークが重いんですよね。
言語の壁もありますが、ワークカルチャーの違いも同様に大きく感じます。しかし、ニュージーランドの多文化共生や平等主義のカルチャーは素晴らしいと感じており、それにフィットしたいと思います。
Q.現在のお仕事で普段から心掛けていることや、他とは違った魅力(もしくは、やりがい)は何でしょうか?
私が普段から心がけていることは、チームプレイヤーであること、多文化社会で働けることです。
現在の会社に入ってあたらめて気がついたことが、オークランドの職場は予想以上に多様性に富んでおり、私はこれまでこうしたグローバルな環境で、どのように働くべきか、適切な行動をとるべきかを学んだことがなかったことです。
日本で学んだ技術力は役立つかもしれませんが、それ以外の仕事のアプローチや習慣は、むしろ足かせになることがあります。
例えば、チームで私一人がイライラするような状況があったら、それは私が日本の仕事文化をもとに判断しているだろうことなので、忘れてしまえばいいと思っています。良い悪いの問題ではないですし、誰も気にしないことを気にしても仕方がないです。それに日本の習慣や文化をもとに、人を判断するようなことは絶対にしてはいけないことだと思います。
今は、多文化社会での働き方を、ゼロから学ぶ努力をしています。
Q. Juniさんは通常15時には仕事を終えるということですが、仕事の後はどの様に過ごしていますか?
通常は朝7時に仕事を始めて、15時に終えます。朝の方が集中できるので。ニュージーランドには朝型の人が多いです。皆、早く仕事を終わらせて遊びに行きたいのでしょう(笑)。
仕事を終えた後は、ウォーキングや筋トレなどのエクササイズをしています。フルリモートワークで一日中座っているため、いつも運動不足を感じています。それでもまだ時間があるので、ガーデニングや読書を楽しんでいます。ニュージーランドにいるからといって特別なことはしていません、のんびりと過ごしています。
【さいごに】これからITの分野でニュージランドで働きたいと考えている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。
ニュージーランドの職場環境は素晴らしいです。私の職場は働きやすい会社として有名なところなので、本当に理想的な職場環境ですが(笑)、一般的に見てもこの国のワークライフバランスは充実しており、それは企業文化や政策によって促進されています。
フレキシブルな労働環境やフラットな組織構造、オープンなコミュニケーションを重視し、助け合い協力して取り組む風土があります。そんなニュージーランドのワークカルチャーを体験していただきたいです。
Juni さん
NZ在住の現役ITエンジニア。2010年にニュージーランドに渡航。現地の大学を卒業後、数回の転職を経て、現在はNZの大企業で働いています。
ブログやSNSでニュージーランドでの働き方やワークカルチャー、就職活動方法などを紹介しています。
【Blog】NZまにまに https://nzitcareers.com/
【X】https://twitter.com/juni_july_1qaz
取材・編集 GekkanNZ