地元を出るなら国内も海外も同じ!畜産関係のより幅広い経験を目指して、酪農強国・ニュージーランドの牧場での就労に踏み切った吉原さん。向上心と熱意を認められてワーホリからステップアップし、勤務先とは関係なくプライベートでヤギを飼育するにまで至った吉原さんに、ニュージーランドにおける酪農の醍醐味や、牧場の仕事の向き不向きについてお話を伺った。
Q. ニュージーランドへ来たきっかけは何ですか?
高校卒業後に、子供の頃からの夢だった動物園の飼育員になるべく、専門学校へ進みました。そこで畜産概論を教えてくれた先生の影響を受け、酪農業界で一旗揚げる意を固めました。
新卒で就職した畜産関係の会社を退職したあと、在職中に畜産関連のより幅広い経験の必要性を感じていたこともあり、次は牧場で働こうと思いました。初めは北海道の牧場を探していたのですが、私は福岡の人間なので、北海道に行くなら海外に行くのも同じじゃない?いつ行くの?今でしょ!と、私の中の林修に尻を叩かれて、酪農強国・ニュージーランドに行くことを決めました。2016年、21歳の時のことでした。
それまでは日本から出たことがなく、日本社会にもぼちぼち順応して生きていたのですが、いつかワーホリしなきゃとは常々思っていました。当初の人生計画よりだいぶ早く、社会人としては経験値の少ない、心もとない状態ではありましたが、いい機会だったかもしれません。
Q. ニュージーランドでは酪農牧場で勤務されているとのことですが、勤務先ではどのようなお仕事をされていますか?
酪農は主に乳牛を健康に飼ってその繁殖を助け、搾った生乳を乳業工場に出荷する産業で、搾乳を始めとする牛の世話や牛が食べる草の世話、牧場の環境管理などが私たちの主な仕事です。
放牧酪農で知られるニュージーランドでは、牛たちが足並みを揃え、草の成長に合わせた繁殖サイクルを繰り返します。毎日20頭前後の仔牛が産まれて息付く暇もない時期もあれば、全頭が一斉に分娩に備えるため搾乳がない時期もあり、1年のスケジュールに緩急があるのが、飽きっぽい私にとってのこの仕事の魅力です。
Q. ニュージーランドでの就職活動はどのように行いましたか?
オークランドから入国して初めの一ヶ月間は、meet upや教会に顔を出し、ニュージーランドの暮らしを観察しつつ酪農の話を聞いてまわりましたが、有益な情報は掴めず。結局たまたまオンラインの求人を見つけたので、迷わずアプライしました。
皆さんが酪農の仕事を検索される際は、“farm hand”や“milk harvester”と検索されるといいですよ。移民に支えられている産業なので門戸は広く、長期勤務を希望される方は引く手数多です。
Q.牧場で働くために必要な資格、あった方がいい経験などがあれば教えてください。
初心者大歓迎、やる気と体力は必須です。牛は英語を話さないので、英語が上手である事よりも動物が好き、牧場暮らしを楽しめる、といった適性が必要かなと思います。
余裕のある方は、日本での牧場勤務を経験してから来られるほうが、ニュージーランドの酪農の特徴がより鮮烈に映り、一段と刺激に満ちた経験になると思いますよ。
Q. 「ニュージーランドで働く」ならではの楽しさや魅力、やりがいについて教えてください。
圧倒的開放感、因みによく「大自然」と形容されますが、これは「大放牧地」の誤りです笑
利便性とは無縁の、見渡す限り人の手が入った放牧場。それでも視界いっぱいの世界を独り占めして汗を流していると、ふと贅沢だなぁと思います。
ニュージーランドの酪農規模で、毎年うん百頭分のライフイベントを経験出来るのも貴重な成長の機会ですね。
Q. オフの日や仕事終わりの過ごし方はどのような感じですか?
庭で飼っている2頭のヤギと戯れたり、ヤギに関する創作活動をしたりと、推し活ならぬヤギ活に精を出しています。
ヤギを飼うことになったきっかけは、ニュージーランドに来て4年目ごろ、社宅の庭の管理にうんざりしていたことです。ニュージーランドは庭の管理に関して周りの目が厳しく、また牧場としても外観は保たなければいけないので、日々、芝刈りと木々の剪定に追われます。私はこの一文にもならない仕事が嫌で仕方ありませんでした。学生の頃にアルバイトしていた観光牧場でヤギを世話していたこともあり、ヤギに庭の草を食べてもらうことで除草ができれば楽だと考えました。実はちょうど同じ頃、日本での就農を視野に入れ帰国も考えていたのですが、帰国する時はヤギは売ってしまえばいいと思っていました。私は動物飼育のプロですから、ビジネスライクにヤギを可愛がることが出来るという自信があったのです。
しかし、ヤギを飼い始めて4年が経った今、私は休日前夜はヤギと一緒に寝ています。一緒に寝ると、夜中に数回、「トイレ出来たよ、褒めろ」とヤギに起こされます。ヤギがソワソワし始める日の出とともに布団を出て、ヤギが朝ご飯を食べる様子を見ます。見ていないと食べるのをやめて、お腹が空いた悲しそうな顔をするからです。俗に言う「食べるの見てて」です。ヤギがご飯を食べるのを見た後は自室に戻り、ヤギを讃える詩をしたため、ヤギの造形美に涙を流し、この世の全てのヤギさんの息災を祈ります。ヤギのように二度寝し、ヤギの足下が濡れぬよう芝を刈り、ヤギにモテながら庭を掃きます。除草のためにヤギを飼ったのに、ヤギは庭の草を食べてくれないので、一文にもならない仕事が増えてしまいました。もちろん、日本への帰国は果たせていません。
Q. 最後に、これからニュージーランドで酪農をやりたいと考えている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。
ニュージーランドはヨーネ病(※編集注:ヨーネ菌の感染によって起こる牛、水牛、めん山羊、しかなどの家畜の伝染病)がコントロールされていないので、防疫に十分配慮し、よその牛とお手元のヤギさんの接触は避けましょう・・・!?
酪農牧場勤務 / Temuka
吉原 ゆきみ さん
福岡県出身、ニュージーランド在住約7年。南島の田舎町・テムカで牛の世話をしている酪農牧場職員。無類のヤギ好きで、社宅の庭で2頭のヤギ、陽(はる)くんと雨(あめ)ちゃんを我が子のように可愛がっている。牧場勤務の傍ら、ZOOMで自分のヤギを見せびらかすヤギ会を開催したり、ヤギをテーマにしたヤギ歌を作詞・作曲するなど、ヤギ活に精を出す。雨ちゃんがバイクに乗った写真がSNSで有名になり、テレビに出るなどしたことも。ヤギの沼に足を取られてもう戻れない。
【X】https://twitter.com/ushihara22
【IG】https://instagram.com/haruame510
取材・編集 GekkanNZ