移転エピソード~前篇~ (ビル購入まで)
152匹の猫をアダプトして約3年半の営業を終えた、保護猫カフェ「ネコ・ネル」。
今回は新たにウェリントン市街への移転エピソードをお話ししていただきました。
保護猫カフェ ネコ・ネルの最終日
保護猫カフェ ネコ・ネルの最終営業日は、2021年6月12日でした。翌13日日曜日の午前中はボランティアさんや里親さんを呼んで最後の時間を一緒に過ごしました。この方たちがいなければ、猫カフェの運営は不可能だったでしょう。感謝してもしきれません。そして午後からはカフェ猫たちのアダプション。プロフェッサー・キャッツ(長期滞在猫)としてよく働いてくれたコーナーやタイガーリリーも、新しい家にもらわれて行きました。この2匹にはとても愛着があったので、リッシェは涙ぐんでいましたが、2匹一緒に知り合いにもらわれて行ったので安心できました。その後は1週間ほどかけて猫カフェの備品の撤去や掃除、いらないものをトレードミーで売ったりと、忙しい日々をすごしました。
一年以上前から始めていたウェリントン市街での店舗探し
新しい店舗の捜索はすでに1年以上前から始めていました。目指すはウェリントンの市街地。今までの経験で、人口密集地でないとやっていけないことがわかっていたからです。市街地には住んでいる人も多いし、通勤で来ている人も多いですから。しかも、ウェリントンのアパートを借りている人の多くは猫を飼うことができません。猫カフェの需要はバッチリです! また、ウェリントン市内であれば旅行客も見込めます。オークランドやクライストチャーチに比べてウェリントンに来る観光客は明らかに少ないですが、その中でもローアーハット市まで足を伸ばす人はほとんどいないからです。
しかし、新しい店舗の捜索は難航しました。ウェリントンで賃貸を探している店舗は多いのに、販売している物件が少ないのです。私たちは猫カフェの猫たちの面倒をもっと見たかったので、猫カフェの店舗兼住居となる販売物件を探していましたが、それが可能な物件は本当に少なかったのです。1年以上も店舗が空いたままの物件もたくさんあるというのに! オーナーはよっぽどお金に困っていないのでしょう。しかも、販売物件があったとしても値段がかなり高い! とても手が出ません。
そんな中、ハット・ラジオのジェネラルマネージャーからローアーハット市中心地の2階建てのビルを紹介されました。この方はうちの猫カフェのお客さんで、ハット・ラジオが部屋を借りているビルが売りに出ており、新しいオーナーがビジネスを始めないと、彼らも運営できないのです。ハット・ラジオはコミュニティー・ラジオ局で、同じようにソーシャル・エンタープライズの私たちと協力してやっていけるのではないかと、紹介してきたのです。
ウェリントン市街地を目指していた私たちはあまり気乗りはしなかったのですが、一応チェックをすることにしました。すると、ローアーハット市の中心地であるクイーンズゲート・ショッピングセンターからわずか1プロックの角地という素晴らしい立地、市街地なので働いている人も多いしアパートも増えている、2階建てビルで将来的にアパートを上階に継ぎ足せる可能性あり、目の前の通り(Margate Street)が新しいメリング駅へ直通の歩道となる、1階に入っていたカフェの設備がそのまま全部残っている、そして、値段はウェリントン市内に比べると格安などなど、かなりの好条件だったのです。
問題は、耐震値(New Building Standard )が約40%と低いこと。NZではこの耐震値が34%を切ると、危険な建物として使用を禁止されてしまいます。また、2階はオフィスとして使用されていたのですが、それを猫カフェ兼住居に使用変更する際に、シティ・カウンシルから耐震値を上げろ、と要求される可能性があることでした。 資金面を考えてみると、今住んでいる自宅を売却し自分たちの貯金を足せば購入資金はなんとかなりそうです。そして、1階のカフェとハット・ラジオの家賃収入があれば、ウェリントン市内ほど集客は見込めなくても経営が成り立つはず。カフェを切り離すことで営業時の負担が軽減され、私たちは猫カフェの運営と猫雑貨に集中できることになります。また、猫カフェ常連客の多くがローアーハット市に住んでおり、私たちにこのまま残って欲しいと思っていることも考慮して、この物件の獲得を目指すことにしました。
いよいよ物件の入札へ
入札(tender)は7月14日。私たちとしては精一杯の金額を提示し、2階を猫カフェ兼住居にできる建築許可獲得のために1ヶ月の猶予、という条件付きとしました。その結果、残念ながら私たちのオファーは受け入れられませんでした。金額的に私たちより20万ドル多い価格だったそうです。無理した金額では経営が行き詰まるので仕方がなかったな、と諦めました。そして、また物件探しに戻ったのです。
ところがです! ビルの落札者が1ヶ月の期限内にデポジットを払わずに猶予を求めている、という話がエージェント(不動産業者)からありました。そこで、少し金額を上げて口頭でオファーを出したのですが、ビルのオーナーはそれを受け付けず、落札者に猶予を与えることにしました。8月18日からロックダウンになりましたが、それを理由に落札者は猶予を何度も頼み続けたそうです。また、検査やプランのためにビルの内部に立ち入ることもしていない、とういう話も聞きました。
これなら可能性はあるかもしれないと、費用がかかるのを覚悟で色々と動き出すことにしました。新しい耐震値レポートは1万ドルもの費用がかかるので始められませんでしたが、現状の耐震値を元に建築士と猫カフェ兼住居のプランの相談をし、それを元にシティ・カウンシルの方とも話をして、建築許可が降りそうだという手応えを得ました。そこで、書面にして正式なオファーをオーナーに再び出しました。金額を上げ、条件なし(unconditional)で、しかもデポジットを20%払うという内容です。通常の住居もそうですが、unconditionalとconditionalでは、オファーの受け取られ方が全く違います。
それがよかったのでしょう、オーナーがこのオファーを受け入れてくれました! これが10月21日のことでした。
\ 次回は、「ネコ・ネル」移転のエピソード〜後編〜をご紹介します!/
Neko Ngeru Cat Adoption Cafe オーナー
岡田憲志さん・リッシェさん夫婦
2017年、ローワーハットのペトネに保護猫カフェをオープンし、3年半で152匹のアダプションを成功させる。現在、街中心部への店舗移転を準備中。
【所】215 High St., Hutt Central, Lower Hutt, Wellington
【Web】nekongeru.nz
文 Ken Okada