2022年7月号掲載
ニュージーランドのパイといえば、真っ先に思い浮かぶのはステーキパイやミンスパイなどの肉の入ったおかず系のパイだ。冬の寒い時に限らず、年がら年中そういうパイがベーカリーなどで売られていて、誰もが気軽に食べている。日本の食べ物でいうなら、コンビニのおむすびぐらい当たり前の存在なのだ。わたしも、ステーキ・アンド・チーズパイやホワイトソースのチキンパイが大好きで、グルメパイの専門店でお気に入りを探すのを楽しみにしている。
それでふと思ったのだけれど、スイーツ系のフルーツ入りのパイは、ここではちょっとちがう扱いである。グルメパイで有名なお店では、アップルパイやチェリーパイも売っていることは売っている。でも、人々の感覚としてはあくまでパイといえば主食とおかずが一体になったものであり、〝おやつにもパイ〟がふつうとは言い難い。実際、パイ・コンテストでイイ線行ったお店でスイーツ系のパイを試してみても「ううーん、そうねー、ソコソコかなー?」みたいな感想だったりする。甘いものは、本っ当に甘いし…。
そんな感じだから、ニュージーランドでアップルパイに期待したことはあんまりなかった。ところが、ある時知り合いの人からずっしり大きなファミリーサイズのアップルパイをいただいてびっくり。サックリと焼けた練りパイ生地に、これまたサックリとしたリンゴの甘煮がこれでもか!というほど詰まっている。持ってみると重く、これで大味だったらどうなのよ…と一瞬ひるんだのがウソのよう。うわー、外側もウマっ。中もウマっ。ここらへんのアップルパイって、外のパイ皮はちょっとフニャっとなっちゃってて、中身はドロッとなるまで煮たリンゴとカスタードクリーム…みたいなイメージなのに、これはちがう〜‼
それからというもの、自分でもそのお店でアップルパイをちょくちょく買うようになった。おまけに自分でもあの生地やリンゴを再現したい思いにとらわれた。でも一般的な練り生地ではまるでダメで、リンゴも今までの自分のグツグツ煮る方法だと〝モニョッ〟とした食感になってしまい、全然サックリしない…。
しかし、ニュージーランドのリンゴたちは、もともと小ぶりでかたくてすっぱ目の品種が多く、アップルパイ用に程よい甘味に煮上げるのに向いているはず。砂糖の量や煮る時間を細かく変えたり、電子レンジで水気を飛ばして、さらにザルの上でとことん水気を切ったり、どうにかしてあのサックリにしたいからがんばる。かたや練りパイ生地も、じっくり寝かせたほうがいいのか、それとも手早く扱うのがコツなのか?そして両方が納得のいく出来に…なんて、簡単になるわけもナイのだ。
ああーもぅー!やっぱりアップルパイはあのお店で買うのが早いっ。こうして何かというと買ってきては、いつも「はぁー、サックリしてて最高!」と毎回感動しています。ちょっとしたお礼などとしてよそに持っていっても「あっ、これあのお店のアップルパイですよね?」とすでに知っている人も多くて、しかも激しく喜ばれる(みんな…好きなポイントはあのサックリ感ですか⁉やっぱり?) 一方で、時々いろんなリンゴを買ってみてはサックリ加熱に挑戦…というのも、あきらめずにやっている。まだだけど、いつの日かたどり着くよ!この国のリンゴを、もっともおいしく食べる方法の一つだと思うから。
*Tuckerとはキーウィ独特の言葉で、「食べ物」というよりは「お腹に詰め込むもの」という意味
マツザキ リカ
ニュージーランド在住25年。クライストチャーチを拠点に暮らし、心も体も豊かにするキーウィフードの探求に余念がない。おいしいものも不思議なものも、いただきます!