2022年9月号掲載
大好きな卵の値段が、じわりじわりと上がっていくのがつらい。というか、もうずいぶん前から卵のパックを手に取るたび「ニュージーランドって、卵が高い国だなぁ」と感じていて、納得がいかなかった。日本で育ったわたしにとって、卵とは百円玉が2コもあれば1パック買えてしまうモノ。特売セールともなれば百円でもおつりがきちゃう、という認識だったのだ。それがこの国だと、最近は4ドルで買えるパックがほぼない。いや、よく見ると日本の卵は1パック10コ入りでこっちは12コが標準なんだから、その分ちょっとは高いんじゃないの、と自分に言い聞かせてはいたけれど、それにしたって…!やっぱり卵はそんなに値段が張らないのにおいしくて、すっごく便利な食べ物であってほしい。ここでも一度ぐらいは1パック1ドル、お一人様1パック限り!みたいなセールにめぐり合ってみたいけど、どうなのよ。
しかし、そんな願望はどうやら激しく甘いものだったらしい。ニュージーランドのおタマゴ様は今後ますます高くなっていく模様である。最近の物価高に勝てないから?たしかに、去年の5月と今年の5月の国内の食料品全体の値段を比較すると、その上昇率はなんと7パーセントに迫る勢いで、卵だって当然その影響を受けていそう。でも、卵の場合はほかにも値段が安くならない理由があるのだ。それは…卵の生みの親であるニワトリ(あれっ、言い方合ってる?)の福祉に関わることなのだった。ニュージーランドでは、いわゆるケージで飼われているニワトリはめちゃめちゃ狭いところで自由に動くことも許されず、不幸な生き方を強いられているとみなされているらしい。特に、止まり木も砂場もないきゅうくつな金網に閉じ込めて卵を産ませる“バタリーケージ”はその不幸な住環境の最たるものだとかで、2022年(今年!)の終わりには国内で禁止になる飼育方法なのだそうだ。
これからは、さらにお金はかかるものの、ニワトリさんたちに(たとえケージの中であっても)もっと広いストレスのないところでより幸せになってもらうのを目指すのだ。その結果として良いおタマゴ様が生まれたならば、わたしたち人間にも分けてもらえる…ハァそうかぁ。それが卵というものか!じゃあ高くなったって仕方がないよねぇ。まして「ケージで育てるなんてとんでもない!ニワトリさんの幸せを考えて、安全なものを食べさせ、広いところをノビノビ駆けめぐらせて!」とまで言い始めたら…。庶民が行くスーパーマーケットの卵でさえ、1パックが7ドル、いやそれ以上なのも当たり前(泣) もはや百円玉でどうとか言っていられるわけがない。
だけど卵は買いたいよ〜大好きだから!せっかく幸せいっぱいの環境で生まれてきたというのなら、せいぜい幸せな食べ方をしてあげたいわ。残念ながら今のわたしには、売り場で一番安い1パック4ドルちょっとの卵とオーガニックだフリーレンジだ、生い立ちがヘルシー、ハッピーと銘打って売られている卵の本当の違いって食べただけではよくわからないのだ…が、卵のおいしい食べ方ならいろいろ知ってる!朝、昼、晩の食事にも、フンワリ甘いお菓子にも、卵は絶対欠かせない。高くなるのは胸が痛むけど、好きなだけ食べられるようにわたしも頑張ろうっと…。卵とニワトリとわたし、みんな幸せになるのだ⁉
*Tuckerとはキーウィ独特の言葉で、「食べ物」というよりは「お腹に詰め込むもの」という意味
マツザキ リカ
ニュージーランド在住25年。クライストチャーチを拠点に暮らし、心も体も豊かにするキーウィフードの探求に余念がない。おいしいものも不思議なものも、いただきます!