憧れだった海外での自然保護ボランティアを体験するなかで、スタッフの生き生きと働く姿と大自然に感銘しニュージーランドに興味を持った外山さん。日本での造園業の経験とニュージーランドの専門学校で得た知識をもとに大手園芸店に就職し、目標であった永住権を取得。新規事業を立ち上げて新たな挑戦を始めた今もボランティア活動を継続し自然への恩返しをしているという。
ガーデナーとしての職を得るためのアドバイスや、多種多様な人々と植物に囲まれたお仕事の中で感じられる魅力などについてお話を伺った。
Q. ニュージーランドへ来たきっかけは何ですか?
ニュージーランドとの一番最初のかかわりは、20歳の時に行ったワーキングホリデーでした。当時憧れていた、海外での自然保護ボランティア活動のために渡航し、自然保護区に泊まり込んで植林や生き物のモニタリングのお手伝いなどをしました。そこで触れた日本とは全く違うニュージーランドの大自然や生き物たちに感動し、そして何よりそこで働くレンジャーやスタッフの方々が生き生きとしている姿に感銘を受け「いつかニュージーランドで暮らしたい!」と思うようになったんです。
ワーキングホリデーの後、紆余曲折ありましたが、日本で造園業に従事しつつ、2015年にニュージーランド移住のために再渡航しました。
Q. 現在のお仕事を始める前はどのようなお仕事をされていましたか?
再渡航して最初の一年は園芸の専門学校に通い、学生中は週20時間働ける仕組みを利用して、Nurseryと呼ばれる、園芸植物の苗を生産するファームにパートタイムで入りました。今思えばこの仕事に最初につけたのはラッキーだったと思います。日本とはまるで違う植物を扱うニュージーランドの園芸業界に入るにあたって、種苗生産の現場でこの国で人気のある植物の名前を片っ端から覚えることができたからです。
専門学校を卒業後は、オークランドにある大手園芸店にワークビザをサポートしてもらい就職しました。ここでは植物の販売にとどまらず、道具や素材の違う植木鉢、肥料や薬剤の使い方をお客さまに説明する仕事などを担当。造園工としてクライアント宅に行き敷石設置や植栽などの造園作業もこなしていました。園芸のプロとしての知識が求められる職場なので緊張感もあり、とてもよい経験になりました。
2019年からは、これまでに習得した知識を生かして本格的にガーデナーとしてやっていこうと、個人宅のお庭の庭木や垣根を定期的に整備するガーデン・メンテナンスの会社に転職、2023年5月まで4年間勤務しました。オークランドは気候が温暖なため庭木の種類が豊富で病害虫も日本とは異なり、最初のころはお庭の植物を枯らしてしまったりもしましたが、根気強くトライ&エラーしながら学ぶことでなんとか克服。2年目からはチームリーダーとして約50件のクライアント宅のお庭の管理を任されるようになりました。
Q. ニュージーランドでの就職活動はどのように行いましたか?
移住当初こそCV片手にガーデンセンターや園芸植物の生産会社などを直接巡っていましたが、就職活動の大半は大手の求人サイトのTrade MeやSEEKなどを利用しました。
ガーデニングや造園の会社では就職の際「ニュージーランド国内での関連職歴」が一番のアピールポイントになるので、面接では特にニュージーランドの前職で何をしていたか、何を学んだかを話すようにしていました。上司や同僚からのレファレンスレターも効果的で、採用の直前には実際にレファレンスレターに書かれた上司や同僚の電話番号に確認の電話がかかってくることも多かったです。 私はニュージーランド永住権取得を視野にいれながら職歴や学歴を積み上げていたので、日本での造園業の経験やニュージーランドの園芸専門学校の学位、ニュージーランド国内でのいくつかの職歴などをCVに書くことができました。2023年まで働いたガーデンメンテナンスの会社に就職する際はCVを送った翌日の朝7時(!)に電話をもらい、面接のセッティングをしてもらったこともあります。後になってHRのスタッフに聞いてみると、やはり即戦力になりそうな応募者は圧倒的に少ないそうです。就職活動を有利に進めるには、時間をかけて計画的に経験を積むのがやはり遠回りなようで近道なのだと感じます。
Q. 現在のお仕事に就くために必要な資格などがあれば教えてください。
ニュージーランドでガーデナーの職に就く際に、必要になる資格というものは基本的にはありません。
ただ、ガーデナーに関連する資格は大小さまざまにあるので、それらを取得しておくことは就職活動に有利に働きますし、実際に仕事で活用することもたくさんあります。ニュージーランドの専門学校や大学を卒業することで得られる学位(CertificateやDiploma)をはじめ、1日〜数日で取得できるものとしてはFirst Aid、園芸薬品を学ぶGrow Safe、チェインソーの基礎を学ぶChainsaw Safetyなどが挙げられます。これらの資格に関しては会社が社員のスキルアップのために無料で受講させてくれることもありますので、仕事を続けながら取得することもできます。
Q. ニュージーランドと日本での働き方の違いなどはありますか?
日本と比べて、社内の風通しのよさは常に感じます。ガーデナーに限らずニュージーランドの職場に共通することかと思いますが、年齢で区別せず、役職の違いもリスペクトこそありますが普段仕事を一緒にする上で必要以上に意識することはありません。また有給はため込むと会社から「つかってくれ」と催促がくるくらいですので利用しやすく、ガーデナーは閑散期に当たる冬場に3-4週間まとめて使って一時帰国や海外旅行をするのが一般的です。ほかにも病休は有給とは別にあり、これは子どもが熱を出した時にも使用できるので、両親などからのサポートがない移民の家族としては大変ありがたい制度です。
日々のスケジュールで言えば、ガーデナーの朝は早く、早朝7時にオフィスにいったん集合し、その日の予定などを上司と確認したのち、チームに分かれて現場へと向かいます。朝が早い分、午後は15時台には終われます。仕事終わりにちょっとビーチに寄ったり、夕方の時間を長く使えるのはいいですね。
Q. ニュージーランドで働くなかでの楽しさや魅力、また大変なことや難しいと感じる部分はありますか?
これまでの経験上、ニュージーランドのガーデニングや造園業界はキーウィ(ニュージーランド人)の割合がやや少なく、スタッフは多国籍であることが多いです。私が勤めていたガーデンメンテナンスや造園を手掛ける会社には100人以上のスタッフがいましたが、出身国の総数は合計で20か国にも上りました。たくさんの国の友人ができ、それぞれの国の文化や食べ物などを知ることができるのが一つの楽しみである一方、みな移民であるため英語のアクセントが強い方も多いので(私自身も含め、ですが笑)、聞き取りに苦労することもしばしばです。意思疎通を確かにするためにも、意識してたくさんコミュニケーションをとることは私自身ずっと心がけています。
Q. 自然が豊かだと言われているニュージーランドですが、ガーデナーとして感じるニュージーランドの魅力を教えてください。
世界中から移民が入ってきているニュージーランドというお国柄からか、ガーデニングで扱う植物もまたインターナショナルです。サツキや椿などの日本の植物から、バラやオリーブなどのヨーロッパのもの、君子蘭やアガパンサスなど南アフリカ原産の植物や、ヤシの木やブラシの木に代表されるようなお隣の国・オーストラリア原産の植物まで本当に多種多様です。世界各国からの植物が楽しめるのはニュージーランドの魅力の一つでしょう。
また、ニュージーランドの原生植物はその8割が世界のどこにも見られない固有種です。これらニュージーランド原生植物も園芸品種として人気があり、インターナショナルなお庭の木々たちに交じってよく植えられています。世界的に見ればとても珍しい植物が街を歩けばごく普通に見られるのも面白いと感じます。
Q. ワーキングホリデー時代にニュージーランドの自然に一目惚れし、家族と共に移住され念願の永住権も取得されましたが、今後の目標などがあれば教えてください。
ニュージーランド永住権を一つの目標にこれまで造園やガーデニング業界で働いてきましたが、2022年に永住権を無事に取得できたこと、またこの業界での経験もちょうど10年になったのを節目に、2023年から新規事業を立ち上げてます。「ONIWA(=お庭)ガーデン・メンテナンス」とビジネス名をつけて、主に個人宅の庭木の剪定や芝生の管理をしています。見積もりから実際の作業、インボイスの発行まですべて自分でこなすことは初めての経験なので試行錯誤の連続ですが、新しいチャレンジを楽しんでいるところです。
もちろん、私にとって原点であるニュージーランドの自然に恩返しをすることも忘れていません。2015年に移住してから継続してボランティアとして植林活動などに参加していますし、最近は地域の環境団体が自然保護区などに設置している外来哺乳類を捕えるワナを定期的にチェックするボランティアも始めました。今後はガーデニング事業と併せて、こういった自然保護の活動にも事業の一環として関わっていきたいと考えています。
【さいごに】これからガーデニング・造園の分野にてニュージーランドで働きたいと考えている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。
日本人特有の仕事のディティールまでこだわれる目、まじめさ、責任感、どれをとっても海外でガーデニングや造園をするのには向いています。日本で関連職歴があればニュージーランドでも即戦力としてやっていけると思います。またたとえ未経験でも、面接で熱意を伝えれば採用してくれるところもちゃんとあります。それにはやはり面接を突破できる英語力も必要です。ニュージーランドでやり遂げたいこと・なりたい姿から逆算して必要なことを身に着けて、ぜひニュージーランドでガーデニングや造園のしごとにトライしてみてください。
外山 稔 さん
2006年にワーキングホリデーでニュージーランドに1年滞在、大自然に一目ぼれして移住を夢見るようになる。日本での会社勤務、海外放浪、結婚などを経て2015年に移住目的で再渡航。専門学校で園芸を学んだ後いくつかの会社で働き、2023年に無事に永住権獲得。現在は独立してONIWA Garden Maintenance代表、ガーデナーとして奮闘中。趣味はキャンプ、スピアフィッシング、バードウォッチングなど。
【FB】ONIWA Garden Maintenance
取材・編集 GekkanNZ