「海外生活の練習」として選んだニュージーランドで目標を見つけ移住した栗原さん。2020年コロナでのロックダウンがこれからのキャリアを考え直すきっかけとなり、よく行くお店の店主との雑談から「いつかは自分のお店を開きたい」という目標がとんとん拍子ですすみ自分のお店を持つことに。
少しずつ積み重ねてきた知識と行動力、日頃の人との繋がりから広がったチャンス。そんな栗原さんの起業までの経緯やお店の魅力などについてお話を伺った。
Q. ニュージーランドへ来たきっかけは何ですか?
1998年の年明けでした。深夜のTVでインドに居る日本人旅行者達にインタビューするという番組を観てすぐ影響を受け、すぐにでもインドに行きたくなりました。
でも幼少から内向的だったし、ましてや海外は一度も出たことがなく、いきなりインド旅行は敷居が高そうなのでどうしたものかと当時勤めていた会社の先輩に相談したところ、ワーキングホリデー(以下 ワーホリ)制度なるものがあると教えてもらいました。
その先輩に「もう自分はいけなくなってしまったから代わりに行ってこい!」と言われ、それでオーストラリアに行こう!と決意しました。しかしオーストラリアは国土が大きすぎるなぁとびびってしまっていたんですが、地図を眺めてみたら横に小さくて北海道と本州だけみたいな島の国があるではないですか。ああ、ここなら“海外生活の練習として行くにはちょうど良いかな”というだけの理由でニュージーランドにワーホリに行くと決めました。
ワーホリの後半3ヶ月過ごしたネルソンのバックパッカーズで知り合った日本人と友達になり、その彼からめちゃくちゃ影響を受けました。その一つで「海外移住」という選択肢を知り、ニュージーランド移住を意識するようになりました。
実家がやきとり屋をしているのですが、父から「ニュージーランドでやきとり屋をやればいいんじゃないのか?」と言われたことがきっかけで短絡的に“やきとり屋開業!”と言う目標を掲げて移住の決意をしました。
Q. 現在のお仕事を始める前はどのようなお仕事をされていましたか?
2000年に2度目のワーホリでオーストラリアにも行ったのですが、少しでも調理の経験を積みたくてほぼ日本料理店で働いて過ごしました。オーストラリアからの帰国後は自動車メーカーの生産技術部門で5年間派遣社員として働きました。
2007年にニュージーランドに移住を開始、まずNSIAという専門学校の1年クッカリーコースを修了して、Kokako Coffeeのケータリング部門とカフェ部門にて計6年間シェフとして勤めました。
その後もラーメン宝のポンソンビー店、Cazador (Mt Eden)、Rothko (Matakana)、Vic Road Kitchen (Devonport)にてシェフをしていました。
Q. ニュージーランドでご自身のお店を開かれた経緯について簡単にお聞かせください。
諸事情からやきとり屋起業は早々に断念していたのですが、いつかは自分のお店は開きたいという目標は温め続けていました。
2020年8月の2回目ロックダウンをきっかけに、自分のこれからのキャリアをどうしていきたいのか考え直し始めました。
そんな時、たまにコーヒー豆を買いに行っていたDear Deer Coffee Roasting Bar Onehunga店に行き、コーヒーをいただきながら雑談をしていたら当時店主だった鹿野さん(現在はDear Deer Coffeeフランチャイザー)から3店舗目の構想があることを聞き、それならぜひ家の近くのエリアに作ってください!と自分の近所のエリアの良さを熱く語っていたらおもむろに「じゃあそれならやってみませんか」と誘われたんです。それをすぐに妻に話してみたところ「いいんじゃない?」と思いもよらず快諾してくれてすぐに行動に起こし、3週間後にはWhangaparaoaの現在の場所の物件を契約し、そこからはとんとん拍子であらゆる物事が進み2020年の12月に開店する事ができました。
Q. バリスタとして働くために必要な資格などがあれば教えてください。
1日〜2週間のバリスタ講習がありますが、私は受講していません。バリスタの仕事を得る上で必ずしも必要なものでもありませんが、未経験の方が目指す場合の基礎知識を得るためには有効だといえます。
私の場合はカフェでシェフをしていた時に少しだけトレーニングを受けるチャンスがあったことや、日本人バリスタの友人が当時何人もいて彼らから色々聞いていた知識が少しずつ積み重なった結果が今の礎となっていると思っています。そのおかげもあってラテアートは不得手ですが味には自信があります。
昔のように闇雲にCVを配り歩かなくても今はSNSを駆使すれば現役バリスタの方からのアドバイスや、場合によっては個人レッスンを受けることも可能です。そこからチャンスを広げて仕事に就くことは難しく無い時代になったと考えます。
ただし国境が元に戻った今は世界各国の人々がライバルになるので少しでも英語力をつけておかないとしんどい思いをするかもしれませんね。
Q. ニュージーランドで働くなかでの楽しさや魅力、やりがいについて教えてください。
お客さんと対等な関係でいられることは大きいです。当店のある地域柄かもしれませんが、混んでいる時にも急かされるもなく皆さん待ってくださっています。常連さんの中には毎日欠かさず来られる方もいます。帰られたお客さんが、美味しいよ!と言うためにわざわざ戻ってきてくださることも多くありました。家族やご近所の方々に宣伝してくれて、しかもちゃんとその紹介された方がいらっしゃったりすることもあります。そういうことが開店当初からあったことが多大な励みとなりました。
今年の年始に2週間休暇を取った時には、
「あなた達がいない間のコーヒーに困っていたから帰ってくるの待っていたよ!」
「2週間のホリデーなんて短いよ、もっと長く休めばいいのに!」
など温かい言葉をたくさんかけていただけました。
常連さんの赤ちゃんやお子さんたちが成長していく姿を見られるのも駄菓子屋のおっちゃんの感覚みたいで楽しいですね。
Q. ニュージーランドと日本での働き方の違いなどは感じられますか?
一般的には休憩・休暇がしっかり取れる、残業が無いなど言われていますが、ホスピタリティ業界では現実には必ずしも当てはまらないと感じていました。シェフの頃は忙しい日には休憩時間が短かったりぶっ続けで夜まで勤務なんて時もありましたが、休暇はしっかり取らせてもらえました。最長で5週間取得したこともあります。
現在起業してからは毎年1月頃に2〜3週間ほどお店を閉めて休暇を取るようにしています。先述したように、お客様もご理解くださっていただけるのはありがたいです。
Q. お店で羊羹やどらやきなども販売されていますが、現地の方の反響はいかがですか?
Dear Deer Coffee Roasting BarはオークランドにOnehunga、Newmarket、Pakuranga、そして私たちのWhangaparaoaの全4店舗あるのですが、当店だけの明確な特徴としてはキッチンがあるためマフィンやクッキーなどのキャビネットフードを毎日作っています。
その一つとしてどらやきは開店当初から提供しています。あまり売れない時期もありましたが最近は口コミやSNSなどのおかげでじっくりと浸透してきていると感じます。あとはアジア各国でも有名なドラえもんの効果なのか、「Whangaparaoaでどらやきを売っているらしい」と噂を聞きつけて遠方からいらっしゃる方もいます。
羊羹はただの趣味で作っていましたが、思い切って今年の5月から販売を始めました。現地の方の反応は予想以上に良いです。グルテンフリー、ビーガンにも対応できる点でもセールスしやすいことは実は盲点でした。
どらやきは土日だけの販売で、羊羹は金〜日の販売で毎週色々フレーバーを変えています。
Q. ニュージーランドで開業するにあたり、大変だったことや事前に準備しておくと良いことなどがあれば教えてください。
私の場合は運が良すぎたと言い切れるほどで、正直大変だったことはあまりないまま開業までこぎつけられた、と思っていました。
ですが振り返ってみると1999年頃にはすでに起業の準備は始まっていたのかもしれません。やきとり屋を開業したい構想はたくさんの人に語り続けていましたけども実際は色々な面から不可能だと断念しましたし、10年前にはコーヒーバンを始めようと車も購入したまでは良かったけど、その車が廃車になってしまうなど結局計画は頓挫したこともあったりして、起業のための準備期間は実は長かったのかなと気づきました。
開業に準備しておくと良いことは、通り一辺倒ではありますがまずは資金と英語力はできるだけ蓄積しておいて困ることはありません。
Q. ニュージーランドのコーヒーの特徴を教えてください。
ニュージーランドでメジャーなコーヒーといえばやっぱりフラットホワイト(ニュージーランド起源説、オーストラリア起源説どちらもあります)ですよね。私たちのお店でもオーダーの大半はフラットホワイトです。
Dear Deer Coffee Roasting Barでは、日本が誇るフィルターコーヒー器具メーカーの“Kalita”の正規販売店でもあるのでその器具を使ってフィルターコーヒーを提供しています。今はまだエスプレッソコーヒーに押されている状況ですが、ニュージーランドにもっともっとフィルターコーヒーを普及させていこうとしています。
【さいごに】ニュージーランドでバリスタとして働きたい・起業したいと考えている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。
バリスタをしたい方へ:まずは色々なお店を回って客層や地域性をじっくり見て自分が働きたいお店のイメージを作ってみましょう。SNS活用、またはお店に直接通って現役バリスタの方と顔見知りになれるとより現実的なアドバイスが得られると思います。
起業したい方へ:ニュージーランドのコーヒー業界は飽和状態と言ってもいいほど市場に対して店舗がたくさんあります。起業するならばどれだけオリジナリティーをアピールできるかが決め手になると思います。でも奇抜すぎてもいけません。
チャンスはいきなりやってくることがありますので簡単にあきらめずやりたいことを日頃から周りの人に話したりして種を蒔いておくとチャンスの芽が開きますよ。
栗原 賢太郎 さん
1975年大阪生まれ・育ち。1998〜9年にワーキングホリデーでニュージランドへ訪れて将来の目標を発見。オーストラリアのワーキングホリデーも経験し、以後何度もニュージーランドを訪れ2007年にオークランドで移住開始。専門学校でクッカリーコースを修了しカフェ、ラーメン店、レストランでシェフとして合計12年勤務。
2020年12月「Dear Deer Coffee Roasting Bar, Whagaparaoa」をオープン。趣味はOP shop巡りと音楽とサーフィン。
【TW】https://twitter.com/aotearoaholic
【IG】https://www.instagram.com/ken_yuka_dear_deer_wgp/
【FB】https://www.facebook.com/deardeercrbwhangaparaoa/
DEAR DEER COFFEE ROASTING BAR
https://deardeercoffee.co.nz/
取材・編集 GekkanNZ