【プライベートシェフ】料理人としての挑戦と恩返し。老舗レストラン勤務を経てプライベートシェフとして活躍する。- Kojiさん

プライベートシェフ Kojiさん BUSINESS

知人の紹介で、日本食レストランで働くためにニュージーランドに来たKojiさん。老舗レストランへの就職や、カフェ・レストラン経営でシェフとしての腕を磨き、現在はプライベートシェフとして活躍している。趣味のワインや写真への造詣も深く、ワインが紡いでくれた人との縁がプライベートシェフの仕事につながったことも。失敗を恐れず一度きりの人生を楽しむKojiさんに、異国で日本食シェフとして働く醍醐味を伺った。

Q. ニュージーランドへ来たきっかけは何ですか?

高校時代の先生の友人から、ニュージーランドの北島ロトルアに日本食レストランをオープンするので、そこで働いてみないかと勧められたことです。中学と高校の時に写真コンテストで入選した経験があり、いつかカメラマンになりたいという夢を持っていました。その時もちょうどニュージーランドかカナダの美しい風景を撮りたいと思っていたので、二つ返事でOKしました。実際にニュージーランドに来たのは、ちょうど40年前の、1984年7月のことでした。

Q. ニュージーランドに来る前はどんなお仕事をされていましたか?

高校時代、冬休みなどの間に地元のスーパーマーケットの鮮魚部門でアルバイトをしていました。そこで魚に興味を持ち、高校卒業後は甲府にある地方市場の水産会社に入社して魚の流通などを勉強しました。その後、個人の鮮魚店で働きながら、魚の下ろし方や仕出し料理を勉強しました。ニュージーランドに来る前には、カメラ店で販売や撮影助手をしていたこともあります。

Q. プライベートシェフの主な仕事内容について教えてください。

仕事は主に3種類あります。

1つ目はプライベートケータリングです。レストランなどの公共の場ではなく、人目を気にせず自宅で食事を楽しみたい方のために、お客様の自宅などに赴いて料理を作る仕事です。お誕生日や結婚記念日などの特別な日に、このような形態のサービスを頼む人が多いです。特に最近は、21歳のお祝いのパーティーに日本食をオーダーする人が増えていると感じます。

2つ目は、個人の料理教室や、家政婦さん的に食事の準備をするという仕事です。お客様の自宅に赴いて料理を作るという点はプライベートケータリングと同じですが、この場合はそのお宅にある食材で料理を作ります。特別な日のための特別な料理ではなく、日常的な物が多いです。

3つ目は、お鮨や刺身、その他料理のデリバリーです。テイクアウェイのお店のように、注文を受けて料理を作り、配達します。プライベートシェフは自分のお店は持っていませんので、配達専門でやっています。

お鮨やお刺身のオーダーは年間通してありますが、10月ごろから5月ごろまではニュージーランドは気候がよくパーティも多いので、プライベートシェフの仕事が増えて忙しくなります。

Q. ニュージーランドでの仕事はどのように探しましたか?

初めての仕事は、上記のように、知り合いの紹介でした。紹介されたロトルアのお店は数か月で辞めてしまい、その後は地元のホテルに就職したり、いったん日本に帰ったりしましたが、オークランドの老舗和食レストラン「有明」で職を得て、再度ニュージーランドに戻ってきました。「有明」で働くことができたのは、料理長の小森さんとの出会いがきっかけでした。「有明」では約10年働きましたが、ちょうどバブル期だったので超多忙で、レストラン業務の他に、JALとAir NZの機内食も作っており、繁忙期には朝から深夜まで働いていましたね。

独立した後にプライベートシェフの仕事ができているのも縁のあるお客さまのおかげです。ワイナリーのプライベートシェフを頼まれたのは、ワイン好きが高じてワイナリーと仲良くなったのがきっかけです。MatakanaのProvidence Wineのオーナーとは20年以上のお付き合いで、世界中からワイナリーを訪ねて来るお客様をもてなす時に仕事を頼まれます。

このように考えてみると、仕事を得るきっかけは人との縁が多かったですね。

Q. ニュージーランドでプライベートシェフになるにあたって、何をどのように準備されましたか?

「有明」を退職した後は独立しました。オーナーシェフとして、日本食のランチカフェやレストラン「Koji」を合計7、8年経営していましたが、やっているうちに自分は経営者向きではないと考えるようになりました。そんな時にプライベートケータリングをする機会をいただき、それがプライベートシェフとして出発するきっかけになりました。

料理は食材と台所、自分の腕があればできるので、プライベートシェフになるにあたって特別に準備したことはありません。調理器具や食器、カトラリーなどは、自分の経営していたレストランのものを使いながら少しずつ追加していき、次第に-60度のフリーザーなどの大掛かりな道具を導入していきました。

Q. ニュージーランドでシェフとして働くために必要な資格、あった方がいい経験などがあれば教えてください。

過去の様々な経験がシェフとして働くのに役立っていると思います。私の場合、水産会社や鮮魚店で働いたこともその1つです。調理の技術を学ぶのは調理師学校に行くのも良いですが、評判の美味しいレストランで働くことで身につくものもあると思います。

英語については、もちろん出来るに越したことはないですが、英語環境で働いて、困ったり悔しい思いをしたりする中で覚えた方が早く上達するのではないかと思います。

Q. 「ニュージーランドで働く」ならではの楽しさや魅力、やりがいについて教えてください。

ニュージーランドは、日本と違って食材の種類がとても少ないので、限られた食材の中で考え工夫して料理していくのが、大変であり楽しみでもあります。

例えば冬になると毎年、食べたいという人たちのためにおでんを作るのですが、さつま揚げやはんぺんは魚を下ろしてすり身から作ります。こんにゃくも粉から練り、厚揚げ豆腐、餅も手作りし、おだしも利尻昆布、真昆布、かつお節から取っています。

おせち料理も、数量限定で食材に拘り手間暇を掛けて作っています。食材は、手に入ればニュージーランドにあるものを使いますが、日本でないと手に入らない食材、例えば、日本でも貴重な干し数の子、本カラスミ、田作り、丹波の黒豆、和栗、利尻昆布と真昆布、大分産冬菇椎茸、高野豆腐などは日本から取り寄せます。

おせち料理を作るようになったのは、ニュージーランドで生まれ育つ自分の子どもたちにおせち料理を通して日本の食文化を伝えたかったからですが、欲しがる人がいるということは、ニュージーランド在住の日本人で同じように考える人が多いということでしょうね。

Q. また反対に大変なことや難しいと感じる部分はありますか?

日本人が真面目過ぎるのかもしれませんが、ニュージーランドの人は仕事に対しての責任感があまり強くないと感じます。

先日、南島から生の本鮪を送ってもらった時に、身が傷まないように、取扱注意と天地無用のステッカーを保冷ボックスに貼ってもらったにも関わらず、配達のバンが箱を立てて積んできました。水産会社に写メを送り、NZPostにクレームを出しましたが、先方から来た返事は「箱が壊れていないのなら、それでいいじゃないか」でした。謝るどころか罪悪感ゼロでした。

Q. ニュージーランドと日本での働き方の違いなどはありますか?

ニュージーランドの会社で働いたことが無いのでよくわかりませんが、普段の生活の中で感じるのは、「会社のため」「お客様のため」に働くという感覚があまりなく、プライベートや家族を最優先で生活している国だと思います。人生楽しく暮らそうぜ!的な。

Q. オフの日や仕事終わりの過ごし方はどのような感じですか?

オフの日は、家の修繕やDIYをやったり、ワイン好きの友人たちと飲んだりしてます。

中高生の時の写真コンテスト入選の話をしましたが、今でも趣味で写真をやっているので、写真を撮ったり、カメラの手入れをすることもあります。

レストランで働いていた時は、休みを利用してウエディングフォトなどの撮影をしたり、ラグビーカメラマンとしてAll Blacks、 Auckland Bluesなどの写真を撮っていました。私の写真が日本のラグビーマガジンなどに掲載されたこともあります。実はGekkanNZさんの創刊時の2号から5号までの表紙の写真も、私が撮影したんですよ。1993年にロックンロールの女王Tina Turnerさんがニュージーランドツアーで来訪したときには、ダメ元でプロモーション会社のスタッフに撮影のお願いをしました。奇跡的にTinaからOKが出て、他のメディアカメラマンと一緒にコンサートを撮影したのはいい思い出です。

Q. 最後に、これからニュージーランドでシェフをやりたいと考えている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。

シェフは仕事時間も不規則で、大変な部分も沢山ありますが、一皿の料理がお客様に喜びと感動を与えることの出来る仕事です。一度きりの人生、やらないで後悔するか、チャレンジしてみるかはあなた次第です。やってだめならそこからまたやり直せばよいのです。

私も何度も失敗しましたが、また起き上がって今もチャレンジし続けています。今は、現在の仕事を続けながら、お世話になったニュージーランドに、食を通して何かの形で恩返しをしたいと考えています。例えば、様々な事情で学校にランチを持って来ない子供たちへのヘルプや、高齢化が進むニュージーランドで、日々の食事に健康的な日本食を提供するビジネスなど、料理人として何かできることがあるのではないかと思っています。


プライベートシェフ 村田康治さん


プライベートシェフ/料理人
村田康治さん


山梨県甲州市塩山出身。1984年7月にニュージーランドに入国し、翌年7月日本に帰国するも、1987年10月に再度ニュージーランド入国を果たし、現在に至る。ニュージーランドではオークランドの老舗和食レストラン「有明」で働き、カフェやレストランの経営を経て、人気プライベートシェフに転身。独立後ワインに興味を持ち始め、すっかりワイン大好き人間になる。写真は中学時代から始め、カメラマンの夢を持ったことも。中学3年生の時に月刊アイドル誌『明星』の写真コンテストで応募者数万人の中から特選10名に入選、そのご褒美に当時のトップアイドルと一緒にグアム旅行に行ったこともある。高校では県内高校生写真コンテスト個人5位入選などの腕前。
Web: www.kojimurata.com
facebook: www.facebook.com/Kojiskitchen
Instagram: www.instagram.com/kojiskitchen

取材・編集 GekkanNZ

この記事の内容は個人の過去の体験談です。必要な場合は、最新の情報をご確認ください。

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