2021年3月号掲載
「キーウィのための日本食、ニッケイ料理を」
オークランドのポンソンビーに続き、昨年11月、ミッションベイに『麻布』をオープンさせた大関幸雄シェフに、“ニュージーランドのニッケイ料理” への思いを伺った。
〝ニッケイ料理〟とは何か、なじみのない人もいるのではないだろうか。
ニッケイ(日系)料理は、100 年ほど前に南米ペルーに移住した子孫、日系移民が、地元ペルーの食材と祖国日本の味を融合させたもの。
中南米や北米ではポピュラーだが、日本には東京に1店舗、オーストラリアではメルボルンに1店舗あるくらいの珍しいジャンルだ。そのニッ
ケイ料理レストランが、オークランドには2店舗ある。『麻布』だ。『麻布』でシェフを務める大関幸雄さんのニッケイ料理はどのようなものなのだろうか。
ニッケイ料理との出会い
築地のお寿司屋さんから始まり、和食、懐石料理、ホテルなどさまざまなジャンルの料理に携わってきた大関さん。イタリアンやフレンチな
どヨーロッパのレストランの味はわかっていた大関さんが、20代半ばごろ、初めてニッケイ料理に出会った。
ロサンゼルスに行った時のことだ。
「当時のロスにはまだ、〝ニッケイ料理〟屋さんというのはなくて、ペルー人が作る日本食屋さんでしたが、そこでサビーチェ(魚介のマリネ)を食べた時、衝撃を受けたのを覚えています。スパイシーな料理が好きだったこともあり、ペルヴィアンの独特の味付けに感動しました」
そこで南米のシェフたちに出会い、ニッケイ料理への造詣を深めていったのだという。その後、海外に出ることを決めた大関さんは、ニュージーランドに渡り、好きなニッケイ料理を手掛けるチャンスを得る。それが『麻布』の立ち上げだ。
キーウィの口に合う日本食を
『麻布』を立ち上げる際、社長のリクエストと大関さんの考えをとことん話し合い、店のコンセプトを決めたという。「日本食をトラディショナルのままで行くと、キーウィの中には抵抗がある人がいる。味付けをキーウィに受けるようにしたい、キーウィが親しみやすい日本食を提供したい」というキーウィであるオーナーの希望に、大関さんが出した答えが、〝ニッケイ料理〟だった。
「ニッケイ料理は数年前にロンドンで流行ったので、キーウィの中でも流行るのではと考えました。やりたかったジャンルをできるチャンス、と思いましたね」
そして、社長と多くのキーウィにテイスティングをしてもらいメニュー等を決めていったという。
「ニッケイ料理は、キーウィが求めるジャパニーズフュージョンの形だと思います。例えばサビーチェ。醤油とわさびの刺身もいいですが、刺身を、ハーブを使いスパイシーで酸味のあるソースで楽しむサビーチェをキーウィは好みます。寿司は、南米でも人気の巻きずしのスタイルで、ニッケイ独自のソース〝トラディート〟をかけます。ペルーでも人気のこのソースはキーウィも好きですね。ココナッツクリーム、チリ、ライムジュースなどでできていて、メインディッシュにも使ったりします」
鮮度と盛り付けを大切に
ニュージーランドとペルーでは採れる食材は異なる。「食材の鮮度は最重要」とする大関さんは、この国でニッケイスタイルをどうのように
作り出すのだろうか。
「ペルーは魚の種類が非常に豊富で新鮮で、昔から生で食べる習慣もありました。ですので、いろいろな魚を使いたいところです。しかし生の魚を輸入するのは難しいため、ニュージーランドの新鮮なスナッパー、サーモンなどを使ってうまく表現していきたいと考えています。また、キーウィはタコのぶよぶよした部分を嫌うので取り除くなどの配慮も必要です」
「南米は野菜の種類も豊富です。じゃがいもは1000種類、カプシウムも何十種類の色があるほど。カラフルな野菜がたくさんありますので、ソースも黄色やピンク、緑などさまざまな色ができます。野菜の種類は本場にかないませんが、色とりどりの美しさをイメージして作っています。個人的に絵をかいたりするのも好きなので、料理もきれいに盛り付けたいですね」
キーウィの嗜好に合わせて、日本とペルーの融合料理を提供する『麻布』。大関さんの手で、日本食がさらに進化してくのだろう。
Azabu
ミッションベイ店は、ビーチやプレイグラウンドが目の前という開放的な立地。昼間は子連れのキーウィママたちでにぎわう、カジュアルさもある。
【所】44 Tamaki Dr., Mission Bay, Auckland
【営】12:00~深夜(土・日曜11:00~)
【休】月・火曜【Web】www.azabu.co.nz
大関幸雄
30歳のころニュージーランド渡り、クイーンストリートにある『蔵』に入店。その後、セーバーグループとともに、2013年にブリトマートに『エビス』を立ち上げる。続いて、ポンソンビーとミッションベイに『麻布』をオープンする。
取材・文 GekkanNZ編集部