食べ物コラムの筆者であるわたしに対する世間のイメージは〝お料理好き〟だと思う。もちろん、それはその通り。おいしいものに目がないし、自分でいろいろ作ってみるのはいつも楽しい。もしも、ひたすら家にこもって料理だけしていなさい、と言われたら、それでずっとハッピーでいられそう…。
そんなめでたい考えで一生いくのかと思い込んでいたら、去年最初のロックダウンに突入した時に意外なことに気がついた。世間では、おうち時間中に料理の鬼と化した人も多かったというのに、わたしはイマイチそういう波に乗り切れず、スーパーで手に入るだけの食材で、くる日もくる日もふつう〜の食事を作る日々を過ごしてしまったのだ。なぜなんだろう、ここぞとばかりに手の込んだものに挑戦…なんて気持ちが一向に湧かなかった。そうかと言って、料理がキライになったわけでもなく…なんなら、買い物の回数も食材の種類も減っていた割には、ちゃんとおいしいものができてモリモリ食べてたんだからスゴくない?と自分で自分をなぐさめたりもした。それでも、自分のおうち時間はラブリーとはほど遠く…SNSで繰り広げられる華やかなおうち時間手作り合戦をのぞき見するたび〝料理好き〟って言ってるわたし、なんか情けなっ…と肩を落としたのだった。
そしてまた最近、あの宙ぶらりんなロックダウンという時間がやってきた。ところが不思議と、今度は昨年のような『おうち時間、すなわちラブリー』みたいなプレッシャーはあまり感じなかった。たぶん、去年の方がロックダウンを前向きにとらえようという風潮が強くて、自由に外出できない時間ですら、なにがなんでも有意義に過ごさないとどこか後ろめたかったのだと思う。幸か不幸か今回のクライストチャーチのロックダウンは、過酷を極めたオークランドと比べてかなり短かったため「今度こそ、ずっと作ってみたかったアレを…」とか言っているうちに、ロックダウンが解除になったという事情もある。本当にわたしは、料理好きなのかなんなのか…。
だけど本当にスーパーさえ開いててくれさえすれば、自分が食べたいと思うものは作れちゃうし…という、一瞬料理好きっぽい強がりもまた、ロックダウンの状況下ではヤワなものだった。この国のロックダウンは、他のどの国でも例を見ないほど厳しいもので、最も警戒度が高い時にはテイクアウェイの飲食店すら営業不可の規則である。そうすると、ふだんはそこまで外食に頼らない(つもりの)我が家ですら、もういてもたってもいられないほど『自分じゃない人が作ったものが食べたい…今すぐ‼』という気持ちが抑えられなくなった。ああ、ハンバーガー…フィッシュ・アンド・チップス…そうだ、中華なんかもいいよね…!はっきり言って、全部家でも手作りしました。けど、ちがうのよ、その道のプロの味は。またこんな調子で、自分が料理好きなのかどうかますますわからなくなっていたら、ロックダウン明けのファーストフード店のドライブ・スルーの列がとんでもないことになっているのを見てハッとした。きっと、あの中にはふだんはお料理好きの人もきっと並んでいる。手作り料理は楽しいけれど、今食べたい!と思うものをサッと買える食事の楽しさもすっごく大事なのだ。わたしも、やっぱり並んじゃう。でも落ち着いたら、またふつう〜のお料理好きに戻るのだ、きっと⁉
*Tuckerとはキーウィ独特の言葉で、「食べ物」というよりは「お腹に詰め込むもの」という意味
マツザキ リカ
ニュージーランド在住25年。クライストチャーチを拠点に暮らし、心も体も豊かにするキーウィフードの探求に余念がない。おいしいものも不思議なものも、いただきます!
2021年10月号掲載