Good Kiwi Tucker! vol.187 たまの帰国もあきらめ なんちゃって和食でがんばってます⁉

Good Kiwi Tucker! GOURMET

2021年11月号掲載

外国住まいなのだから、和食環境が不自由なのは仕方のないことだ。それでも、クライストチャーチはぐんぐん便利になってきて、今ではお刺身で食べられる魚も手に入るし、なんならしっかりした日本の食材の専門店まであるから、一通りのものはだいたいそろうという恵まれた環境だと思う。どうしても日本でないと食べられないものは、それこそ一時帰国した時だけのお楽しみでいい。懐かしい場所で大好物を気が済むまで食べる機会がありさえすれば、あとはまた、ニュージーランドで〝なんちゃって和食〟を模索する日々がきたって全然やっていけるのだ。それに、検疫が通るものなら日本から郵便で送ってもらうことだってできる。こうやってうまくバランスを取れば、日本人のここでの暮らしって悪くないよね…?

ところが…そんなふうに気楽にかまえていたら、コロナ禍の世がやってきて〝たま〜に帰国して会いたい人に会い、食べたいものを食べまくって買い物、あとは用事が済んだら飛行機で戻る〟という早ワザが全然できなくなってしまった。郵便ですらいつ止まるかと思うと、おちおち家族に「日本のアレ送って〜」なんて頼むこともままならない…。ああ不便!でも乗り切るぞ。だってここはクライストチャーチだ。わたしには、ずっと精進してきた〝なんちゃって和食〟という味方もいる⁉

そんな妙な意気込みでスーパーのお魚コーナーに出向いたら、久しぶりに生のイクラが出ているのを発見した。フフフ、これぞなんちゃって和食の真骨頂ではないの。ニュージーランドでは時々、鮭のお腹から出てきた状態の生のイクラが、こうやって無防備に市場に出回る。そして1パックのサイズも500グラムだ、1キロだと豪快そのものだ。

イラスト リカ

見つけた時に買い込んで、ちゃんといい味に漬け込むワザを駆使すれば、豪華こぼれイクラ丼も夢じゃないのだ。キーウィの人たちは、サーモンは好きでもそのタマゴのイクラは捨てるもの、という概念だった歴史が長い。だからイクラの方はお値段もお手頃で、わたしたちには願ったり、叶ったり…のはずだった。

なのに、いや待てこの生イクラ、めちゃめちゃ高い‼ そうだ…時は流れ、以前は「捨てるくらいなら売ってください」「こんなの欲しいの?どうぞどうぞ!」みたいな値段だったイクラが、最近は高級食材に変貌を遂げたのだった。和食屋さんあたりで食べ方を覚えた人が多くなり、売れるとなったらお店の方も値段を釣り上げ…そういえば、今年に入って「あっイクラ!」と思って手に取ったビン入りのそれは、人工のイクラもどきだったっけ。そこまでして食べたい人が増えましたか…(ガックリ)。どんぶりゴハンにごっそり盛って…なんて、この国でももう幻のメニューになっちゃったのね…。

でも、今回の生イクラは買いましたがね!もう昨今の渡航費用を思えば、高いと言ってもかわいいもんである(なんて危険な思想だ…)。今日も日本の動画を見ると(見なきゃいいのに)、旅番組でキラキラまばゆい和食のごちそうが映し出される。「なんだこの正視できんテレビは!この内容はけしからん!」とグルメレポーターに食ってかかるわたしは、やっぱりめずらしくホームシックなんだろうか…。負けるな、わたしのなんちゃって和食。再び日本に行けるその日まで!

*Tuckerとはキーウィ独特の言葉で、「食べ物」というよりは「お腹に詰め込むもの」という意味

マツザキ リカ

ニュージーランド在住25年。クライストチャーチを拠点に暮らし、心も体も豊かにするキーウィフードの探求に余念がない。おいしいものも不思議なものも、いただきます!

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