2022年2月号掲載
夏のニュージーランドはくだものがいっぱい。特に年明けあたりにはチェリーやラズベリー、ボイセンベリーなどがつぎつぎシーズンを迎えてお店に並ぶ。そしてその中でも、大好物のチェリーが山積みになっているのを見ると、いてもたってもいられないのだ。できるだけ大きな粒を選んでたっぷり買い、家に着いたら、待ちきれずに一粒を口の中にポイ。ひろがる香り、 厚ジューシー、チェリーっておいしいー!
ハッ…でもわたしの至福の瞬間はなんとここまで。いつの頃からか、バラ科のくだものを食べるとアレルギーが出るようになってしまい、たった一粒味わっただけでとたんに喉と耳の奥がムズムズかゆくて仕方なくなってしまうのだ。しかし、チェリーが好物であることにはかわりがない。だからカユミと闘ってでも、一年に何粒かは食べたくて苦しむのである。なぜこんな体質になってしまったのか、本当に悔しい。
それでも毎年、あのツヤツヤ大粒の赤いチェリーは出回る。そしてその旬は短く、あぁこの夏もチェリーが出たなぁ、少しは買おうかな、でもまたカユカユの苦しみが…やっぱやめよう…などと、くだもの売り場の山を横目で見ては通り過ぎているうちにチェリーの時期は終了してしまう。いいのか、わたし?このままでは、口いっぱいに大きなチェリーをほおばる幸せは一生あきらめることになるぞ? そんなの、イヤだ!
というわけで、どうにかしてチェリーを心から楽しむべく、わたしは考えたのだった。まず、何がダメかというと、生のままで食べるのが一番ダメらしい。それなら火を通してみる?でもグツグツ煮たらジャムみたいに果肉がくずれるおそれがあり、最大の幸せポイントであるサクッとした噛みごこちと、絶妙なフレーバーが台無しになってしまう。もっと生の良さを残しながら体へのダメージを軽減できたなら。ついでに言うなら、食べる時にどうしてもジャマになるタネもなくして、うまいとこだけパクパク食べられたなら。そんなわたしのワガママがかなう食べ方がありましたよ、甘くなりすぎない程度の砂糖をからめてサッ、と加熱するだけでできる、コンポートというものが!
まあその前段に、ゴッソリ買ってきたチェリーの実から、一個一個タネを抜くという超ぢみちな作業も避けては通れんわけではあるが…。これだって、生のチェリーが気楽に食べられる体質であったなら、クキを持ってパクッ、そしてタネだけプッ、をエンドレスでやれば済むというのに。それをくだものナイフを使ってマナ板の上でやるもんだから、キッチンまわりも両手もなにもチェリーの赤いシルが飛び散りまくり、さながらスプラッターの様相が呈される‼ あれをやっているところって、ちょっと誰にも見られたくない感じ。そう、人様にお見せするなら、きれいな瓶の中で輝くあの出来上がりの姿に限る。真っ赤なまあるいチェリーたちが、そりゃもう美しいんだから…。
もちろん、コンポートがステキなのは見た目に限らず…もし生のチェリーがすっぱくてハズレだったとしても、この方法ならおいしくなることまちがいなし。さらにたくさん買いすぎた時も長めの保存が可能で、例のカユカユ問題も無事解決。いいことばっかり!とか言いつつ、実際は(砂糖と一緒に)生よりいっぱい食べすぎちゃうという新問題が勃発している…が、そんなことには全然負けない自分なのだった。
*Tuckerとはキーウィ独特の言葉で、「食べ物」というよりは「お腹に詰め込むもの」という意味
マツザキ リカ
ニュージーランド在住25年。クライストチャーチを拠点に暮らし、心も体も豊かにするキーウィフードの探求に余念がない。おいしいものも不思議なものも、いただきます!