この国の人たちって、家で揚げ物をしないなぁと思う。ふつう揚げ物が食べたくなったら、フィッシュ・アンド・チップスのお店に行くのだ。フィッシュは、例の天ぷらに似た衣を付けてカリッと揚げた白身魚のことで、チップスは言わずと知れたフライドポテト。このメニューって本当にそれだけなのだが、魚がおかずでおイモが主食と考えると、これは完成された食事ということになる。いくらなんでも揚げ物オンリーじゃアレだからサラダを添えましょう、とか、ポテトは付け合わせでしょ？と言って主食を考え直したりとか…そんな律儀なことは誰もしない。そしてフィッシュ・アンド・チップス屋さんにはそれ以外の揚げ物もいろいろあるから、やっぱりわざわざ家で揚げ物をしなくてもいいシステムが確立されているのだ。
他のテイクアウェイのお店だと、たとえばショッピングモールのお寿司屋さんにも唐揚げなどが置いてある。日本風の唐揚げもなかなかの人気だけど、これも家で自分で作るものではなさそう。さらにそのお店の揚げ物のラインナップを眺めてみると、なんと天ぷらもあるのを発見！しかもかき揚げは巨大で、エビやら玉ねぎやらのたっぷりの具が、どうかすると人間のカオぐらいの大きさで絡み合っているようなものである。なるほど、このお店は丼ものやうどんなどもあるから、トッピングとしての天ぷらが単体でも売っているのか…日本人のわたしには、それ以上の考えは及ばないのだった。
しかしそこはモールのフードコートで、お持ち帰りだけでなく、お店の横のテーブルで買ったものを広げることもできるのである。すると中には、そのカオのサイズのかき揚げのみを買い、その場でワシワシかじっている人たちもいるのだった。︵さすがに、かき揚げは買ったら包丁で四つに切ってパックに詰めてもらえるのだが…それでも大きい！) そんな…巨大な揚げ物一個だけで一食いきます？ああっ、これはもしや、あのフィッシュ・アンド・チップスを食べる時の感じなのでは！ちなみに、ソースはテリヤキソースなんぞをドバーッとかけてもらえる。かき揚げって、ここでは単体でメインにもなるわけ⁉
さすがに天ぷらをそうやって食べたことはなく、そもそもわたし自身は家で揚げ物をすることも苦にならないタイプである。だから今まで、あのモールの巨大かき揚げのことは知ってはいたが、我が家では出番がなさそう、と思っていた。ところが、今年の夏はめずらしく猛暑になり、ついには「どうしても今日はおソーメンしか食べたくない！」なんて日までやってきた。そうかと言って、ソーメンだけじゃさびしいなぁ…でも、こんな暑さで天ぷらやるなんて堪えられないぞ。そこで思いついたのがあのかき揚げのことだった。意を決して気になる2種類、ベジタリアンの野菜かき揚げと、エビがゴロゴロ入った海鮮かき揚げ、両方買ったら…全然食べきれないほどの天ぷらパーティー状態に！いや〜こんなの今日揚げたらタイヘンだったわ、しかもちゃんと日本の天ぷらっぽくソーメンにもぴったり！もちろん、自分で買う時は「ソースは何にもかけないでっ！」とすばやく言わないと、あっという間にニュージーランド式のテリヤキ味にされてしまうから気をつけて。でも、この国っぽく食べてみたいなら揚げ物だけのテリヤキ・テンプラ・ランチ、してみるのもいいかも⁉
＊Tuckerとはキーウィ独特の言葉で、「食べ物」というよりは「お腹に詰め込むもの」という意味
マツザキ リカ
ニュージーランド在住26年。クライストチャーチを拠点に暮らし、心も体も豊かにするキーウィフードの探求に余念がない。おいしいものも不思議なものも、いただきます！
2023年3月号掲載