判断力が著しく低下したらどうする?生存中の永続的な委任状「EPA」について

IMMIGRATION

Enduring Power of Attorney (EPA)

永続的委任状(Enduring Power of Attorney 以下EPA)を作成することは、あなたが自分自身のことを決定する能力を失った場合(認知症など)に、信頼できる誰かに、あなたのために法的な決定をゆだねることが出来る方法です。

EPAには『介護と福祉のEPA』 と『財産のEPA』の2つのタイプがあります。権限を与えるあなたは”ドナー”と呼ばれ、ドナーが権限を与える相手は “代理人”と呼ばれます。

さて『介護と福祉のEPA』では、ドナーが精神能力を喪失した場合のみ有効で、代理人は、ドナーがどこに住むか、誰がドナーの面倒を見るか、どのような治療がドナーに必要かといった問題について決定することができます。

『財産のEPA』では、代理人はドナーの金銭や財産に関する決定をすることが出来ます。特定の事項や財産に限定することも、全般的な権限とすることも出来ます。さらに代理人は、ドナーが精神能力を喪失した後に限らず、ドナーの選択によってEPAを作成した直後から権限の実行を行うことができるとすることも可能です。

では精神的能力を欠いているとはどのように判断されるのでしょうか?具体的にはドナーが介護や福祉に関する意思決定ができず、理解もできない状態です。財産のEPAでは、ドナーが自分のお金や財産を完全に管理する能力がない状態を言います。判断が難しい場合には資格のある医療従事者のプロフェッショナル・アセスメントをもって判断されることになります。

『介護と福祉のEPA』では代理人は一人、『財産のEPA』については複数の代理人を立てることができます。多くの場合、ドナーは20歳以上の家族(通常ドナーの息子や娘)や親しい友人などの信頼できる人を選んでいます。家族の中にその候補者がいない場合は、受託会社(Trustee Companies)を『財産のEPA』に関する代理人とすることができますが、受託会社を『介護と福祉のEPA』の代理人にはできません。

代理人はドナーにとっての重要な事柄を決定することができる立場になりますので、絶対的な信頼と責任のあるポジションです。したがって次のようなことに責任を持つことになります。

  • ドナーの最善の利益のために行動する。
  • 自立を促す。
  • ドナーが特定の人を指名している場合、判断を下す時に そのキーパーソンに相談する。
  • すべての金銭の記録を保管する。
  • 利益相反を避ける。

では具体的にどのようにEPAを作成すると良いのでしょうか?どちらのタイプのEPAにも法的な定形文があります。ドナーが希望する形の項目を選んでいく形式です。出来上がるとドナーと代理人は、どちらもそのEPAに署名しなければなりません。ドナーの署名には弁護士やリーガルエグゼクティブ、または受託会社関係者の立会いが必要で、代理人の署名にも成人の立ち合いが必要となります。

ドナーの署名証人となる人はドナーに文書の効力を説明し、説明したことを明言、確約する法的な証明書にサインしなければなりません。したがって弁護士がこれを担うことが一般的です。

EPAには任意で、次のような事項を盛り込むことが出来ます。

  • ドナー自身が「誰が自分の精神能力を評価するのか」を指名する。通常指名されるのはドクターです。
  • 代理人が何かを決定する前に「特定の誰かと協議しなければならない」「特定の誰かに常に情報を提供しなけ ればならない」などの条件を定める。家族関係者が多数の場合は有益な任意条項かもしれません。
  • 『財産のEPA』では、代理人への特権や給付金を与えるかどうか任意で定められる。なお『介護と福祉のEPA』 では代理人は報酬を受け取ることが出来ません。
  • さらに、バックアップの代理人(後任代理人)を加えることも可能。
  • EPAの原本は定形になっているので、これらの任意事項やその他特記しておきたい事項があれば、別添えで指示書を作成することも出来ます。

具体的な財産として家、車、銀行口座、保険証書など、すべての主要資産のリストを知らせておくのがよいでしょう。債務およびその他の負債のリストや保険証書、出生証明書などの重要書類の保管場所などもこれにあたるかと思います。

代理人はドナーにとって非常に重要な役割を引き受けることになりますので、代理人が一定の監督や管理を受けるように設定しておくことも出来ます。例えば代理人が何らかの決定を下す時に必ず相談しなければならない人をドナーが指名することが出来ます。どう判断していいか分からないことが起こった場合は、代理人は指示を家庭裁判所に伺う(申請)することも出来ます。

家庭裁判所は、様々な権限を持っていてドナーの精神的能力、EPAの有効性、代理人の決定の見直し、代理人の選任の取り消しなどを決定することができるとされています。家庭裁判所への申請は、家族、エイジ・コンサーン、受託会社など関与している人が行うことができます。

ドナーは、精神的に能力があれば、いつでもEPAを撤回することができます。この場合はドナーが撤回書に署名し(立会い人が必要)代理人に通知を送ります。

反対に代理人が役割を引き受けられなくなった時は、棄権通知をドナーもしくは裁判所に送ることによって辞任できます。さらには家庭裁判所の命令やドナーもしくは代理人が死亡した場合はそのEPAは、無効になります。

EPAを作成する前にドナーが判断能力を失った場合、家庭裁判所での手続きが必要となります。家庭裁判所は、個人的な世話と福祉に関するパーソナルオーダーを発することや財産管理人※を任命することが可能です。

ただし、この手続きはEPAがあった場合と比べて時間と費用がかかることになるでしょう。
※Property manager

ローズバンク法律事務所
弁護士 西村純一
オークランド大学法学部卒業後、ニュージーランドで初の日本人弁護士となる。
【Web】https://www.rosebanklaw.co.nz

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