ニュージーランド移住者の心理的傾向(アンケート結果報告)

ニュージーランドにおける 国際移住研究 ニュージーランド移住者の心理的傾向 アンケート結果報告 IMMIGRATION

調査の目的 

現在、海外にいる在留邦人は131万人いるとされており、ここニュージーランドにも約2万人の日本人が生活をしています。人々が国を超えて移動する理由は様々ありますが、最近の海外移住においては、生活の質やライフスタイルの向上を目的とした『ライフスタイル移住』が増加しています。ライフスタイル移住が増えた背景には、バブル崩壊後の「失われた二十年」の間に生じた人々の価値観や生き方の変化がありますが、2011年3月11日に発生した東日本大震災と福島第一原発事故、さらにこの数年間の COVID-19も、人々の安心・安全なライフスタイルに対する志向性を高めています。この研究では、高リスク状況にある近年の日本社会において、人々を海外移住へと向かわせる要因、および移住後の適応について心理学的な観点から検討することを目的としています。

2023年12月1日よりオンラインでアンケート調査を実施しました。今回の結果は、2024年2月4日までの約2カ月間で収集したデータによるものです。

永住者および長期滞在者で、調査に同意をいただいた242票が調査協力者になりました。この数はニュージーランド移住者全体の1%以上であり、統計学的に一定程度信頼性のあるサンプルサイズになります。調査協力者の特徴を示すと、性別は男性64名(26.6%)・女性177名(73.4%)、年齢は平均46.2歳(標準偏差10.5)でした。エリア別では、オークランド地方59.9%、カンタベリー地方20.2%、ウエリントン地方9.1%、その他が10.8%でした。移住した時期については、2000年以前が17.6%、2001~2010年が32.6%、2011年以降が49.8%でした。

ニュージーランドへ移住された動機として、Pull要因とPush要因について尋ねました。Pull要因とは移住者を惹きつけるニュージーランド側の要因のことであり、Push要因とは海外へと人々を押し出す日本側の要因になります。それぞれについて、「あてはまる」(「ややあてはまる」と「非常にあてはまる」の合計)と回答した割合の多かった上位5項目を示すと、図1のような結果になりました。

Pull要因としては、ニュージーランドの自由さや豊かな環境、ワークライフバランスなど、ライフスタイルに対する志向(そしてそれを実現できるニュージーランドの環境)がニュージーランド移住の主要な動機となっていました。また海外や異文化への憧れや関心の強さも移住の動機となっていました。一方、Push要因については、日本社会におけるルールや価値観とのズレや違和感、またそれによって生じる心理的・物理的なストレスが、日本を飛び出しニュージーランド移住へと向かう動機となっていました。なお、全体的にはPush要因よりもPull要因の割合が高く、人々がニュージーランドに魅せられて移住していることが明らかになりました。このことは、移住先として「ニュージーランドだけ考えた」人が57.0%と半数以上を占めていることからも明らかであると考えられます。

図1 ニュージーランド移住者の移住動機(上位5項目づつ)

現在のニュージーランドでの時間の使い方と日本にいた時の時間の使い方の変化について尋ねた結果、図2のようになりました(「減った」は「1時間ぐらい減った」「2時間ぐらい減った」「3時間以上減った」の合計。「増えた」も同様)。

ニュージーランドに来て、仕事・勉強の時間が減ったという人が半数以上でした。一方、自分の自由時間・家族との時間・睡眠時間については増えたという回答が半数以上となりました。特に自由時間と家族との時間については、「3時間以上増えた」が45%以上となっていました。つまり、日本にいた時よりも仕事・勉強の時間が減少し、その分自分の時間や家族の時間が増加するなど、ワークライフバランスが実現されていることが示されました。

図2 ニュージーランドと日本での生活時間の変化

ニュージーランドに移住し、どれほどニュージーランドでの生活に適応および満足しているかを尋ねました。 その結果、適応感については87.1%の人が適応できている(「ややあてはまる」と「非常にあてはまる」の合計)と回答しました。また生活満足度についても、74.4%の人が現在のニュージーランドでの生活に満足していました。また長期的な展望として、これからもニュージーランドに住み続けたいという定住意図についても約7割の人がその希望を持っていることが示されました。

図3 ニュージーランドへの適応感・満足度_定住意図

以上のように、ニュージーランド移住者の多くが、ニュージーランドでの生活に適応し、満足していることが明らかになりました。しかし割合的には少数ですが、適応度や満足度が低い方もいます。ニュージーランドへの移住が自らの強い希望や願いであった場合もあれば、家族や仕事の都合、さらには震災による影響などによって不本意ながら海外へと移住された場合もあります。個人の幸福を考えた時、ニュージーランド移住のどのような側面が適応感や生活満足度に結びついていくのか、より詳細な分析が必要です。また移住された時期や性別、家族や仕事の状況によっても、移住の動機や適応は変わってきます。紙幅の都合上、本稿での記載はここまでですが、より詳細な報告書を作成しましたので、ご興味のある方はぜひ研究プロジェクトのHPをご覧ください。

この度は私たちの『海外移住に関する意識調査』に対し、多くのニュージーランドにおられる在留邦人の皆さまにご回答いただきました。また調査の実施にあたり、各地の日本人関連の組織や現地で知り合いになった皆さま、SNS等でご協力いただきました。皆さまのご協力に心より感謝申し上げます。

現在も調査は継続して実施してます。統計的に正確で、またより多くの知見を得るためにはもう少し多くのデータ(あと100票程度)が必要です。今からでもご協力いただける方はぜひよろしくお願いします。

立命館大学  加藤 潤三
神戸市外国語大学 前村 奈央佳

データがより集まるほど、統計学的により確かな調査になります。
特に【男性の方】【若い年代の方】【レジデントビザ以外の方】【南島の方】【2000年以前に移住した方】のデータが不足しております。これからでも協力いただける方はぜひよろしくお願いします。

本記事に関するご意見やお問い合わせはこちらへ
Email: jkato@fc.ritsumei.ac.jp
立命館大学 産業社会学部 加藤潤三

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