宮城県栗原市からニュージーランドへ研修に!「地方公務員海外派遣プログラム」派遣員・小林夏海さん(宮城県栗原市役所)

宮城県栗原市から ニュージーランドへ研修に! 地方公務員海外派遣プログラム スペシャルインタビュー LIFESTYLE

宮城県栗原市役所から、「地方公務員海外派遣プログラム」の研修でニュージーランドにいらした小林夏海さん。多民族・他文化国家と言われているニュージーランドの「ニューカマー支援」に注目して研究をされてきたとのこと。3ヶ月の滞在を通して、北島、南島を回って、様々な自治体、支援団体に訪問して来られたそうで、その貴重な経験についてお話を伺いました。

Q.日本ではどんなお仕事をされていますか?

宮城県の県北にある栗原市役所で、姉妹都市交流、国際交流関係を担当しています。

Q.今回、研修でニュージーランドにいらっしゃったとのこと。どのような研修なんですか?

総務省が行っている地方公務員の海外派遣プログラムを通して来ました。訪問する国と研究したいテーマを設定して、約3ヶ月間滞在します。他にも4人参加者がいて、彼らは、アメリカ、イギリス、ヨーロッパ諸国に滞在中です。

Q.研究テーマを教えてください。

ニュージーランドの移民政策をテーマに、移民の受け入れ支援をしている自治体やグループを訪問して勉強しています。

栗原市は高齢化が進んで全体の人口は減っていますが、市内に住む外国人の数は年々増加傾向にあります。数年前に外国人向けの日本語学校ができたことや、市内にある企業が外国人の技能実習生の受け入れをしていることが影響していると思います。「こういう支援が必要なんですがどうしたらいいですか?」という市役所への問い合わせも増えてきているように感じます。

現時点では栗原市として何か対応をしているわけではないのですが、将来的に市としての支援を考えていく必要があると考えています。栗原市に来ている外国人の方に安心して生活してもらいたいですし、移民の方の生活が安定することは、元々住んでいる日本人市民の方の安全にも繋がると思うからです。

ニュージーランドで学んだことを栗原市で活かせたらいいと思います。すぐに変えられることではないと思いますが、移民の受け入れ支援の実例を持ち帰り、他の職員と共有したり、支援の方法を考えるきっかけになればいいなと考えています。

Q.ニュージーランドを選んだ理由は何ですか?

今回の事業が別名「海外武者修行プログラム」という名前だったので、自分のコネがほぼないところにしようということが一つ。あとは、栗原市は、田舎の小さな自治体なので、あまり大きい都市の成功事例を持ってきたところで落とし込めないかなと思い、ニュージーランドにしました。

Q.最初の1カ月はオークランドの語学学校に通われていたとのこと。何か印象に残ったことはありますか?

コロナを経て久しぶりの海外だったので、アジア人差別などがあるのではないかと少し心配していましたが、実際にはそのようなことは全くなく、逆に驚きました。語学学校の先生とも「移民に対する受け入れの姿勢が他の国とは違うよね」と話しました。

語学学校に通って気づいたことは、英語にはいろいろなアクセントがあるということです。日本の学校教育では、綺麗なアメリカ英語、イギリス英語しか聞く機会がありませんでしたが、実際に海外に出てきてみると、流暢と言われている人の英語にも必ずアクセントがあります。多様なアクセントを聞く機会があると、逆に英語を話すことに抵抗がなくなった気がします。完璧な英語じゃなくても、伝えようという気持ちがあれば、相手は聞いてくれるんですよね。どんなアクセントがあろうとみんなが自信満々に話しているのが羨ましく、私もそんな風に話せたらなあ!と思いました。

Q.語学学校を卒業後、本格的に研究テーマのための調査をされてきたとのこと。是非、訪問先でのエピソードを教えてください。

ニュージーランド移民局が実施している「ウェルカミング・コミュニティ」という事業に注目し、栗原市と人口や産業構造が似ている自治体を中心に、パーマストンノース、アッシュバートン、クライストチャーチ、クイーンズタウン、オークランドの5つの自治体を訪問してきました。

「ウェルカミング・コミュニティ」は、ニューカマー(新しくきた人たち)を地域であたたかく迎え入れましょうという目的で実施されています。みんなが過ごしやすい環境を作ることで経済的にもメリットがあるという考えのもとで行われている事業です。このムーブメントは「ウェルカミング・インターナショナル」といって、ニュージーランドだけでなく、オーストラリア、カナダなどでも行われていますが、国ごとに取り組みは違うそうです。ニュージーランドの特徴は、政府主導というよりは、政府が各地域に資金を提供して、地域・町ごとに独自の取り組みができる点です。

特に、パーマストンノースの取り組みが印象に残りました。パーマストンノースは、ニュージーランドに「ウェルカミング・コミュニティ」が導入された当時から活動している自治体の一つで、活発に移民受け入れを推進し、独自の取り組みも多くあります。例えば、新しく移住してきた人たちに対して、「よくいらっしゃいました」という歓迎の意味を込めて「ウェルカミング・セレモニー」を年に3回ほど開催しているようです。それから、町の情報を写真と一緒に紹介する冊子や暮らしの便利帳のようなものをまとめた「ウェルカミング・パック」を配布しています。その中には、ニュージーランド人がよく使う方言や言い回し、マオリ語をまとめたカードも一緒に入っています。こういうちょっとした情報こそ温かみを感じるし、大事だと思いました。

ウェルカミング・コミュニティ/ウェルカミング・パックの一部

アッシュバートンでは、無料で利用できる民間団体のサービスや困りごとがあった時の連絡先の情報をまとめた冊子が作成されています。緊急時の対応が一覧にまとまっているのも助かりますね。ニュージーランドは、行政というよりは民間や地域住民のボランティア精神で行われている取り組みが多いですが、こうした取り組みは、日本に持ち帰りたいと思います。

Q.民間団体と行政の連携ができているのですね。

「ウェルカミング・コミュニティ」に「アドバイザリーグループ」というものがあります。コーディネーターを中心に、関連するボランティアグループや経済関連の団体と6週間に1度話し合う機会を設けているそうです。さらに「マルチカルチュラル・カウンシル」という「国際交流協会」のような活動をしている団体とも連携して、移民の支援をしていると知りました。

Q.災害などの緊急事態の対応についても関心があるとおっしゃっていましたね。

緊急時の対応についてどんな取り組みをしているのか知りたくて、クイーンズタウンにある「ナショナル・エマージェンシー・マネジメント」という災害対策をしている機関と、大学で災害時の住民の心理を研究をしている助教授にお話を伺いました。最初に言われたのは、「日本の方が進んでいる」ということと、「避難訓練の方法や避難物資の支援方法などを学びに日本に研修に行ったこともある」とのことでびっくりしました。

災害時の外国人や観光客向けの対応について質問したところ、クイーンズタウンの場合は空港に近いホテルを避難所代わりに使うそうです。情報の周知のしやすさを考えて、国籍ごとに分けて人を集める計画を用意しているとのことでした。

大学の助教の先生から聞いた話で興味深かったのは、出身文化圏や所属するコミュニティによって災害や防災に対する意識が違うという話です。また、同じ文化圏出身でも、被災経験があるかないかで準備の差が出たり、行政への信頼度や、緊急時に最初に拠り所にする機関もそれぞれ傾向が異なるそうです。こういうことを事前に知っておくと、実際に緊急事態が発生した時に、役に立つと思いました。日本人は災害に慣れていますが、絶対的に正しいことはないという前提で行動しないといけないなと思いました。

Q.日本にいると、他の文化への意識がどうしても薄くなりがちですよね。

赤十字の職員の方にお話を聞いて知ったのですが、「ソーシャルワーカー」「ケースワーカー」とは別に「クロス・カルチュラル・ワーカー」という通訳兼文化的摩擦を減らす役割を果たすポジションがあるそうです。これは重要な仕事だと思いました。宗教や文化によって、失礼にあたること、やらない方がいいことがあると思うのですが、知る機会がないとわからないことが多いですよね。そこで、移民や難民の方とコミュニケーションをとる際には「クロス・カルチュラル・ワーカー」について来てもらうそうです。自分の出身の言葉を話してくれる人がいるのは心強いと思いますし、日本に帰ってから、意識していく必要があるなと思いました。

Q.日本に持ち帰って活かせそうだなと思ったことはありますか?

様々な担当者の方とお話をして思ったことは、担当者目線で必要な支援を選ぶのではなく、支援を受ける側が何を求めているのかを知ることが重要だということです。

例えば、「冬場の運転は危ない」という注意を出すとして、日本人なら冬になれば道路が凍結したり霜が降りたりするのを想像できますが、1年間を通して温暖な気候の国出身の方にとっては何が危険なのかが想像しにくいですよね。地元の人が体に染みつきすぎていて当たり前と思っている情報こそが本当に重要な情報だったりする。実際に住んでいる人にしかわからない地元の情報もたくさんあります。だからこそ、ニュージーランドのコーディネーターさんや担当者の方々は、移民の方と密にコミュニケーションをとり、移住してきた人たちが本当に何を求めているのかを重点に考えていらっしゃるんだなということを学びました。

それから、どの担当者の方も、自分が生まれた場所の文化を大切にしてほしいと話していたことが印象に残っています。確かに移住先の新しい土地の生活にも馴染まなければいけませんが、自分の出身の文化も大切だというところを忘れてはいけない。「ウェルカミング・コミュニティ」では多様性を尊重して、「お祝いすること」を大切にしています。この「お祝いしましょう!」という考え方が、自分的にはとても新鮮でした。

また、達成すべき項目の中に、必ず「well being」という考え方が出てきて、それもグッときました。日本にいると二の次になってしまいますが、とてもニュージーランドらしい考え方だし、大事だなと思いました。

一方で、地方の小さな町だと、移民受け入れの取り組みをしたとしても、仕事がなかったり、交通手段などの生活のしやすさに問題があったりで、定住に結びつかないこともあるそうです。それが栗原市と重なるところがあり、課題に感じました。研修を始める前は、どうやって支援しようかという問題意識からスタートしたのですが、支援以前のそもそもの話に戻ってきてしまった感じです。ニュージーランドの場合、小さな町では若い人がどんどん外に出て行って、移民を受け入れないと産業自体が成り立たないというのが現実です。「町の存続を顧みず移民を受け入れないと決めるか、町の存続を考えて失敗するかもしれないけど移民を受け入れるか、どちらかしかない」という話を訪問中に何度か耳にしました。これは日本にも通じる話だと思うので、持ち帰ってよく考えていきたいです。

Q.貴重なお話をたくさんありがとうございました。最後に、栗原市の魅力やおすすめスポットを教えてください。

まず、栗駒山にはぜひ登っていただきたいです。標高もそこまで高くなく、小学生以来山登りをしていない私でも登れます。9月末から10月にかけては紅葉のシーズンで、綺麗に色が染まるんです。

次に、ジオパーク。「ビジターセンター」では、大きなプロジェクションマッピングで地形の変化について勉強できます。私のお勧めは、ガイドさんの解説付きで、荒砥沢地すべりを少し離れたところから実際に観察することができる「ジオガイドツアー」です。

食べ物も美味しいものがたくさんあります。例えば、栗原産和牛や野菜、さらに米どころでもあるので、日本酒の蔵もたくさんあるんですよ。私も日本酒が大好きなのですが、味もすっきりしたものから甘いものまで、いろんな銘柄があってどれも美味しいので、ぜひ呑んでいただきたいです。

温泉もあるので、山に登って、降りてきて温泉に浸かって、夜美味しいご飯と日本酒というプランなんかいかがでしょうか!

伊豆沼のハス
栗駒山の紅葉

宮城県栗原市 企画部 市民協働課 主事
小林夏海(こばやし なつみ)さん


宮城県栗原市役所 企画部市民協働課 宮城県出身。大学卒業後、栗原市役所に入職し、姉妹都市交流や国際交流に携わる。地方公務員海外派遣プログラムを通じ、多文化共生の先進事例を学ぶためニュージーランドへ。各地の自治体や支援団体を訪問し、移民政策や地域の受け入れ支援を研究。栗原市の国際化に活かせるよう、日々学びを深めている。日本酒が好きで、クイーンズタウンで出会った「全黒」に感動したのが忘れられない。

栗原市の市章とマスコットキャラクター「ねじりほんにょ」

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