8月といえば、冬の最後の月。と言いたいところだが、すでにあちこちで春の兆しを感じずにはいられない。川沿いの黄色いスイセンや白のスノードロップスたちがこれでもかと言うくらいに咲き乱れ、寒々しい落葉した木々の足元には白やライムグリーン、赤紫、シックな濃い紫のヘレボルスがあちらこちらで咲き誇っている。この時期ヘレボルスを見ていつも思うことがある。日本ではそれ全般を、なぜかクリスマスローズと言う流通名で扱っている。だが、西洋諸国では本来ヘレボルスの中でもクリスマス近辺に咲く純白のヘレボルス ニゲルのみをクリスマスローズと呼ぶ。
今時期見頃を迎えているのはヘレボルス オリエンタリスや、木立性ヘレボルスと言われ茎が立ち上がるヘレボルス フェチダス。ここニュージーランドでも、もちろんこれらを決してクリスマスローズとは呼ばない。日本の園芸業界で基礎を学んだ私はつい、これをクリスマス…と呼びたくなる。さて、このヘレボルスは毒性があるのを、皆さんご存知だろうか?学名であるヘレボルスは、ギリシア語の殺すを意味する「Helein」と食べ物を意味する「Bora」を語源に持っているそうだ。殺す食べ物なんて、なんとも恐ろしい名前!!見た目は美しいけど毒がある。それは、まるで白雪姫が食べてしまった美味しそうでツヤツヤな毒りんごのよう。でも、こうして語源を辿ると隠語のように名前にヒントが隠されているなんて、ああ、より恐ろしい、魔性のヘレボルス。そんな事を、この季節一人モヤモヤ考えている。
Naomi Goto Garrett
五嶋ガレット直美日本でガーデンデザイナー、イラストレーターとして活動。
園芸雑誌や新聞へのコラム執筆、デザイナー向け講演も行う。
現在クライストチャーチ近郊に在住。
【ブログ】naomigarden8.com
2023年8月号掲載