ウェリントンにある保護猫カフェ「ネコ・ネル」。インター校の教師から、保護猫カフェをオープンすることになったきっかけや保護猫活動をはじめた理由、これまでの歴史と閉店までの経緯などについて伺った。
教師から保護猫カフェのオーナーに
私たちがNZに移住してきたのは2016年5月。米国出身の妻とは日本のインター校で出会い、1998年に結婚した後はクウェート、メキシコ、中国のインター校で夫婦で教師をしていました。私は1994年から95年にかけてワーキングホリデーでオークランドに生活していたので、それ以来ずっとNZに移住したいと思っており、それがようやく実現できたのです。妻も私も自国での生活があまり好きではなく、中立の第3国としてNZは最適でした。
私の親友が大阪でずっと保護猫活動をしており、それに啓蒙を受けていたのですが、数年ごとに国を変えていく生活ではたまたま身近で保護した猫に家を見つけてやることぐらいしかできていませんでした。上海での9年の滞在の間にようやく保護団体のメンバーとなり、月一回のアドプション・イベント*に参加したり、勤務する学校でファンドレイズやアダプションのイベントを行いました。この時の経験で得たものは、実際に見たり触れあってもらう機会がないと、動物にとって新しい家を探すのがなかなか難しいということでした。
このこともあって、NZ移住時には「保護猫カフェを開きたい」という希望を持っていました。小さな保護団体では週末しかアダプションは行なわれず、猫カフェなら新しい家族に見てもらえる機会が大きく増えるからです。猫助けと仕事が同時にできるのであれば、最高ですよね。到着後、古巣のオークランドに1ヶ月ほど住みましたが、人の多さと交通渋滞に辟易し、ウェリントンに移ってきました。すでにオークランドに猫カフェが2軒もあることもオークランドを出る理由のひとつでした。
本格的なコーヒーも提供する保護猫カフェをオープン
ウェリントンで店舗の捜索は難航しましたが、9ヶ月かけてようやくローアーハットで人気のあるジャクソンストリートの西の端の方に店舗を見つけました。ウェリントン市内ではなく、その北のローアーハットにしたのは、ローアーハット市で自宅を購入していたのとウェリントンの家賃が高かったからです。また、「猫カフェ」というコンセプトに馴染みがなく、なかなか家主の同意を得ることができなかったのも理由のひとつでした。さらに、この時に苦労したのは工事費の高さ。元銃砲店だったものを猫カフェに改装するのに、1500万円ほどかかりました。クラウドファンディングで一部を援助してもらいましたが、ペンキ塗りなどは自分たちやボランディアさんにお願いして、何とか開店まで漕ぎ着けたのは2017年11月でした。
ネコ・ネルはNZで4軒目の猫カフェ、保護猫カフェとしては初めての店舗となりました。日本の猫カフェではほとんどありませんが、エスプレッソマシンの本格的なコーヒーや軽食を提供し、日本や中国から仕入れた猫雑貨も販売するという多方面のビジネス展開を目指しました。
当初の開店ラッシュとNZの夏休みを過ぎた後には客足が落ち、週末やスクールホリデイ中以外は猫部屋が満席になることはなかなかありませんでした。ジャクソンストリートは人気のあるところではありますが、周りは一戸建てしかなく、明らかに人口密度が低いのです。猫カフェのようなニッチな業態は、周りに人口が密集している必要があると思われました。
昼間はカフェ、軽食、猫雑貨、猫の世話に終われ、家に帰ってからも猫のアドプションや引き取りの対応、ソーシャルメディアやウェッブページの管理と、することは山ほどあります。教師時代と違いオン・オフがなく、常に頭が仕事脳になっているのがつらかったです。
”When you build, they will come”と、当初は舐めていたんでしょうね。教師以外の経験がない二人が猫カフェを運営するのはあまりにも無茶だったのかもしれません。当初は従業員も必要以上に入れており、自分たちの給料が満足に出るほどには稼げていませんでした。
コロナ禍での営業
コロナによる2020年4月のロックダウンは、私たちにとってはいい休息になりました。それまで24時間ほぼビジネスのことを考えて生活したことから解放されたからです。しかも、ウェッジ・サブシティで私たちも従業員も手当を保証してもらい、今までほとんど給料の出ていなかった私たちからすれば、夢のような状況でした。
しかも、ほとんどのカフェ猫に既に家が決まっており、ロックダウンまでの数日の間にアドプションを終えることができました。決まっていなかった数匹の子も、ロックダウン前にコンパニオン・アニマルが欲しいという方にもらわれていきました。残ったのは3匹のプロフェッサー・キャッツ。これはネコ・ネルの長期居住猫たちの呼び名で、この子たちは私たちの家に連れて帰って世話をすることにしました。つまり、カフェは無人/無猫で通勤する必要がなかったのです。クライストチャーチにはCatnap Cafeという素晴らしい猫カフェがありますが、カフェに猫が残っていたためにここのオーナーは毎日通勤する必要があって大変だったと思います。
ロックダウンが終わりアラート・レベルが2に下がった時から、猫部屋の最大人数を減らして再開しました。みんなコロナを怖がって来店しないかな、と思っていたのですが、驚いたことに以前よりも明らかに忙しくなりました。これは、在宅ワークで街に仕事で出る人が減り、ローアーハット市に残っている人が多かったからだと思われます。また、ストレスフルな状況で猫に癒しを求めてこられたのか、と思っています。猫のアダプションを求める人も増え、安定した経営をできるようになってきました。
2021年になって4年目の賃貸更新期間が迫ってきました。ようやく軌道に乗ってきたとはいえ、このまま四六時中仕事をしている状態でこれ以上やっていくのは難しいと判断し、もっと人口が密集しているところに移ろうと決めました。契約を打ち切って閉店したのが6月のことでした。
こうして約3年半のネコ・ネル営業は終わったのですが、この間にアダプトされた猫は152匹! 保護猫団体に比べれば、全然大したことのない数ではありますが、猫カフェという環境を考えるとこれぐらいのペースが自分たちにもカフェにいる猫たちにとっても合っていると思います。当初は保護猫団体からの猫ばかりでしたが、2年目以降はネコ・ネルに直接譲渡を問い合わせてくる家族も増え、ウェリントン地方で少しは認められてきたのだなという手応えはありました。また、この間に培った人脈―友人、顧客、ボランディア、ビジネスネットワーク等は、今でもとても大事なものです。ソーシャルメディアでいつもフォローしてくれている方もたくさんできました。私たちのビジネス経験としてもとても大切なものでした。
*アドプション:保護猫の里親を見つけて引き渡すこと
\ 次回は、「ネコ・ネル」移転のエピソードをご紹介します!/
Neko Ngeru Cat Adoption Cafe オーナー
岡田憲志さん・リッシェさん夫婦
2017年、ローワーハットのペトネに保護猫カフェをオープンし、3年半で152匹のアダプションを成功させる。現在、街中心部への店舗移転を準備中。
【所】215 High St., Hutt Central, Lower Hutt, Wellington
【Web】nekongeru.nz
文 Ken Okada