年齢でサッカー教育の吸収率が違う?
学びのゴールデンエイジとは
10年ほど前からニュージーランドでのサッカーを経験してきて現在Auckland City FCに在籍し、日本人FIFAクラブW杯最多出場でありながら、ニュージーランドの小学生にサッカーを教え、アンダー23のユースたちの試合にオーバーエイジ枠で出場し若手育成にも携わっている岩田さんに、第7回はサッカーにおける育成についてお話を伺った。
プログラムの選び方は?
ニュージーランドのフットボールクラブでは、リーグに出るトップチームの活動だけでなく、地域の子どもたちがサッカーを習うプログラムも実施していることが多い。クラブによって方針は様々だが、おおむね個人のボール回しの習熟度などのtechnical、戦術などのtactical、意識的な部分のmental、そしてスタミナや俊敏さなどのphysicalといった面を練習の中でカバーしていくことが多いと言えそうだ。ある程度成長した年齢になると個人の特徴なども加味してトレーニングすることもあるそう。例えばパーソナリティのようなものはポジションにも影響すると思うが、どのポジションにはどんなパーソナリティ要素をmentalの面で加えていくと良いだろうか?
「そうですね、ストライカーやゴールキーパーだったら優し過ぎてもダメで、ある程度の我の強さが必要だと思います。ニュージーランドはコンタクトも強いので気持ちを強く持っていくことは大事ですね」と岩田さんは言う。
各フットボールクラブの子ども向けプログラムについてはウェブサイトなどに育成についての考え方やメッセージが書いてある。どういったプログラムを選べば良いか決め手はあるだろうか。
「確かに謳い文句などは書いてあるのですが、実際にその通りにしっかり指導しているかというと、実はコーチによってバラ付きがあると言わざるを得ません。そのため、親御さんが実際に練習現場に行ったり、試しにプログラムなどに入れてみて、自分の目で確かめるということをお勧めします」
サッカーを学ぶタイミング
戦術を学んだり、ある程度の体づくりが必要だったりと、子どもたちがサッカーを学ぶ上で適した年齢のようなものはあるのだろうか?
「9歳〜12歳の間が“ゴールデンエイジ”と呼ばれ、ここでどんな環境で誰にサッカーを学ぶかが大事だと言われています。身体的な能力や技術も大事なのですが、サッカーは頭を使うスポーツですから、技術だけではなく戦術的なものも学んでいかなくてはならず、それには試合をするということが必要不可欠です。クラブの長期間におけるプログラムに参加するなら練習だけでなく必ず試合も組み込まれたプログラムが良いでしょう。また、今は小さい子から大人まで、メッシなどの世界のスター選手のプレーをじっくり観ることができます。それを真似してドリブルを仕掛けて抜いていくプレーをしようとする選手もいますが、例えば自陣でそれを始めてしまったりと間違ったタイミングでしてしまうとカウンターを喰らうリスクになりますし、戦術的にそういったプレーをどう生かすのかは学んでおくべきで、安易にスター選手のような華やかなプレーをやっちゃおうとせず、経験を積んで適切にプレーしていく必要があるでしょう」
確かに、ニュージーランドで子どもたちのサッカーを見ていると、日本の子どもたちに比べ、小さいながらも華やかなプレーをしようとすることも多い印象があるが、勝ち進むためにはより戦術的に学んでいくことも必要だということか。
ゴールデンエイジの時期に、具体的にどんなことを身に付けたら良いだろうか。
「この時期に身に付けたい技術としてはボールをコントロールすることが挙げられます。まずはボールを止めるコントロール、次にパスやシュートなどのボールを蹴るコントロール、最後にドリブルのようにボールを運ぶコントロールを身につけることが大切で、僕自身はファーストタッチで次にできるプレーの幅が広がると思っています。だから、止めるが1番大切だと考えていますが、もちろん全てを正確にできるようになるのが大切です。周りを観ることが大切なのは以前お伝えしていますが、ファーストタッチが良いと視野が広がり、周りを観る時間が増えます。ゼロコンマ何秒で周りの状況は変わりますし、判断する時間もゼロコンマ何秒の世界です。そういう意味でファーストタッチでどこにボールを止めるかが重要になってきます」
ニュージーランドの指導者
ニュージーランドのサッカーにおいて、監督の指示はどのようなものだろうか?
「僕個人としては、ニュージーランドの指導者たちもまた他国に学び、あるいは他国から指導者を招聘するなどして、指導側も伸びるべき部分があるのではないかと思っていますが、現状をお話しますと、ニュージーランドでは監督がこと細かに指示を出す場合は少ないように感じます。監督はアイデアなどは詳しく言わず、“こういう状況にしたい”というさわり(指示のメインとなる部分)だけを指示し、実際にその指示を実行するための後ろの部分は選手個人で判断していくことになる場合が多いですね。例えば味方と相手のボールに対する人数を2対1(Two V One)になるべくしたい、と言われたら自分たちでその局面を作るにはどうすれば良いか考えて対処することになります」
個人で周りをよく観察し信頼関係を作り、適切な判断ができるよう引き出しを増やしていく必要に迫られるのがニュージーランドでプレーするということか。本コラム第一回で岩田さんの言った“ニュージーランドでは使われる選手ではなく、選手個人で考えてプレーできる選手になった”に通じる部分と言えそうだ。
ニュージーランドでよく見かける
サッカープログラム
Grassroots
まずはサッカーを楽しもう
5歳くらいから参加できるプログラムがよくGrassrootsと呼ばれている。まずはサッカーを楽しくプレーしようということに重きを置いて内容が組まれていて、クラブによるが、対象は小学校くらいの子どもであることが多い。ボールの取り回しに慣れること、走ることを中心とした身体能力のトレーニング、そしてプログラム参加者内で紅白戦など試合が行われる。
Academy
より強くなるために
参加規定はクラブにより異なる。希望者は参加できるところもあるが、トライアウトを受ける、コーチ側からスカウトする、などもある。入りたい場合は入る意気込みをどんどん伝えよう!クラブ指定のユニフォームセットを購入し身につけることが多く、Grassrootsより週あたりの練習日が多い、練習時間が長い、などの場合が多い。より複雑なボール捌きの練習や、実践的なメニュー、試合運びを学んでいく。
Holiday Program
様々な出会いがあり、お試し参加も◎
ニュージーランドの学校は4学期制で、1つの学期(Term)が10週ほどの長さがあり、2、3、4学期の間には2週間のSchool Holiday(学期休み)がある。そして学年最後の4学期と、学年最初の1学期の間には7週間ほどの長いSchool Holidayがある。この4つのSchool Holidayの間に、サッカーに限らず様々な習い事がHoliday Programを開講する。Football Holiday Programは気になるクラブのコーチや練習、雰囲気がどんな感じなのか知るのに良い機会だ。クラブによってはトップチームのプレーヤーから直接指導してもらえることも。また、申し込めば連日長時間(3〜4時間ほどなど)サッカーに触れられることもあるので、例えば少し大きい子たちとの練習となればグッと経験を積むこともできる。いろいろなクラブのプログラムをチェックしてみるのもいいだろう。
他にも様々なプログラムがある
上記の他にも、数ヶ月の間、クラブに所属し一つのチームとして他のクラブと対戦するなどのプログラムもあったりする。また、Grassrootsよりは実践的だが、Academy以前のプログラムなどもある。開講の曜日や時間も様々なので、スケジュールなどをチェックしてみよう。
岩田 卓也 Takuya Iwata
ポジション:DF。2006年に岐阜FCに入団。オーストラリアに渡り2010年からEdge Hill United FC、Queensland Bulls FCに加入後、ニュージーランドに移住し2012〜2019年Auckland City FC在籍。2020年からWestern Springs AFC、その後、日本に戻り、はやぶさイレブン、福井ユナイテッドFCを経て、2022年から再びニュージーランドのAuckland City FCに加入。
2023年8月号掲載
Text: GekkanNZ